債権回収はケースバイケースではなくルール化が必要

債権回収はルール化して画一処理が必要

債権回収という業務は、企業規模を問わず必ず発生するにもかかわらず、扱いが担当者の経験や判断に大きく左右されがちな領域です。債権はそれぞれ発生原因や相手方の属性、金額、取引経緯などに個別性があるため、「ケースバイケースで考えるべきだ」という考え方自体は一見もっともらしく聞こえます。そのため、特に創業初期の企業や少人数で運営している組織では、1件ずつ状況を見て担当者が柔軟に判断して処理するということも珍しくありません。むしろ、組織が小さい段階であれば、実際に個別判断が最適に機能することもあります。
しかし、企業がある程度の規模に達すると、債権が一定の件数で常に発生し続けるようになり、そのすべてを1件ずつ考えて処理するには限界が生じます。担当者が増えても、判断基準にばらつきが出てしまえば管理の整合性が保てず、回収漏れや対応遅れを生み出す危険性が高まります。また「経験がないと判断できない」状態は人材育成にも大きな障壁となり、担当者の異動や退職でノウハウが失われるリスクも抱えることになります。
このような背景から、成熟した企業ほど債権回収においてはルール化・マニュアル化を重視します。ルール化によって、非熟練の担当者でも一定水準の業務を再現できるようになり、誰が担当しても同じ判断と同じ処理結果に到達する状態が整います。もちろん、完全な機械的処理にするという意味ではなく、まずは基本となる判断基準や処理フローを明文化し、その基準ラインに沿って画一処理を行うことが前提になります。その上で限られた範囲だけを個別判断とする方が、企業全体としてははるかに合理的で、リスク管理の観点からも望ましいと言えます。
そこで本稿では、こうした観点から債権回収をルール化する際の基本的な手順や考え方について解説します。ルール化は一度取り組めば永続的に機能するものではなく、企業の取引構造やリスクの変化に応じて定期的に見直す必要があります。しかし、最初の基盤を固めることで、企業の債権管理は大きく効率化され、担当者の負担も軽減されます。まずは、どの企業でも必ず行うべき基礎的なところから整理していくことが重要です。

年輪調べは基本中の基本

債権回収のルール化を進めるうえで、最初に行うべき作業が「年輪調べ」です。年輪調べとは、各債権がどれだけの期間滞留しているのか、すなわち本来の弁済期からどれだけの年月が経過しているかを正確に把握する作業を指します。この滞留期間の把握は、債権管理における最も基本的でありながら重要な指標であり、これを実施していない企業は債権回収の適正化に着手していないと言っても過言ではありません。
年輪調べに必要な情報は決して多くありません。本来の弁済期が分かるデータさえあれば、滞留期間は自動的に算出できます。つまり、必要なのは取引管理の基本データの整備であり、特別な分析スキルを要する作業ではないです。それにもかかわらず、実務では「支払遅れがあるのはわかっているが、どれがどれだけ遅れているのかまでは正確に把握していない」という企業が少なくありません。これは、売上管理と債権管理が別々に運用されていたり、担当者レベルでの経験頼みの運用が続いていたりすることが主な原因です。
滞留期間は長ければ長いほど貸倒リスクが高まります。これは統計的にも実務的にも一貫した傾向で、支払遅延が長引いている債権ほど将来的な回収可能性は低下していきます。したがって、滞留期間を基準に分類・区分するという作業は、債権回収業務全体の優先順位づけを行ううえで極めて重要な役割を果たします。また、貸倒処理に関するルールも、この滞留期間を軸に設定する企業が多く見られます。例えば、滞留が1年以上であれば回収方針を見直し、2年以上であれば法的手続検討、3年以上であれば貸倒処理基準に該当する、というような基準を定めるケースです。
年輪調べは単に「古い債権を捨てるための作業」ではありません。むしろ、どの債権にどれだけのリスクがあるのかを見える化し、優先順位を設定するための重要な基礎作業です。これを定期的に実施することで、債権管理は一段と精度が高まり、担当者の判断負担も軽減されます。年輪調べを行うことは、ルール化の第一歩として欠かせない要素なのです。

債権の種類毎に年数を設定する

滞留期間を把握した後は、債権回収の判断基準をより具体的にするために、債権の種類ごとに対応すべき年数や回収方針を設定する必要があります。債権には発生原因も性質も大きく異なるものが含まれます。例えば売掛金、貸付金、未収入金、立替金など、同じ「債権」と一括りにしてもその背景は千差万別です。したがって「何年滞留したら貸倒処理」という単純な一律ルールでは実態に即した運用ができません。
例えば、飲食店のツケや個人病院の診療代などは少額の債権が多く、取引がカジュアルであるぶん支払いが曖昧になりやすい特性があります。こうした債権は1年も経過すれば回収可能性が大きく低下するため、1年程度で貸倒処理の対象とすることも現実的です。むしろ、少額債権について長期間にわたり管理コストをかけ続けることは非効率であり、費用対効果の観点からも早めに回収可否を判断する方が合理的です。
一方で、比較的高額の貸付金などは性質が異なります。貸付金は契約関係が明確であり、相手の資力や背景事情により回収可能性が左右されることが多く、たとえ相手が無資力であっても、裁判で勝訴判決を得ることで時効を更新し、長期間にわたって回収を試みることも可能です。この場合、単純に滞留期間だけで処理方針を決めるのではなく、訴訟可能性や資力調査の結果を踏まえ、一般の売掛金とは異なる年数基準を設定することが合理的です。
また、継続取引の有無も重要な判断要素となります。継続的に取引があり、今後の関係性維持が重要な顧客に対しては、単に滞留期間だけで判断するのではなく、回収方針を柔軟に設定するべき場合もあります。いずれにしても、債権の性質と取引の背景を踏まえて、種類ごとの年数基準を整備することが、債権回収ルール化の根幹となります。

優先度に応じた柔軟な対応を

ルール化が重要である一方、実際の債権回収では柔軟な対応も欠かせません。債権の回収は「金額」「回収可能性」「タイミング」という3つの要素が作用し、それらが絶えず変動していく性質があります。特にタイミングは回収成果を大きく左右する要素の一つです。
例えば、普段は連絡しても全く応じない債務者が、ある時突然譲歩の姿勢を見せることがあります。この瞬間を逃さず適切に交渉することができれば、本来回収困難と思われていた債権であっても一定の額を回収できる場合があります。ルールだけに依拠して「この債権は今月は手を付けない」と判断してしまえば、せっかくの回収機会を逃してしまうことになりかねません。
また、金額の大小だけで債権回収の優先順位を決めることも必ずしも正解ではありません。例えば少額であっても確実に回収できる債権が複数ある場合、それらを優先して処理することでキャッシュフローの改善に直結するケースがあります。逆に高額債権であっても、相手が無資力で状況に変化がない場合は、時間やコストをかけても意味がないことがあります。
柔軟な対応とは、ルールを無視することではありません。むしろ、ルールを基礎としながら、例外的なチャンスが訪れたときにその機を逃さず適切に優先順位を組み替えることが重要であるということです。これは経験値だけで行うものではなく、日々の債権状況を正確に把握し、状況変化が起きた債権を迅速に認識できる仕組みがなければ実現できません。ルールに固執しすぎず、しかしルールを軽視もしないというバランス感覚こそ、組織的な債権管理に求められる姿勢と言えます。

弁護士との協議

債権回収のなかには、通常の営業部門や経理部門だけでは対応が難しいケースも存在します。金額が大きかったり、債務者が特殊であったり、相手方の意図が読みにくかったりする場合は、弁護士の活用が非常に有効です。弁護士を介入させることで、単なる請求では得られない交渉力が生まれ、有利な和解条件を引き出せる場合があります。また、強制執行という強力な手段に至るまでの手続を円滑に進めることができます。
もっとも、弁護士への依頼は費用が伴うため、どの債権に弁護士を投入するかは慎重に判断する必要があります。例えば、単に時効を止めるだけが目的の場合には、弁護士を介さずに自社で訴訟提起を行う方が費用を抑えられます。一方、複雑な背景があり交渉力を高めたい場合は、弁護士を活用する価値が高まります。重要なのは、債権の状況を逐一把握し、どの段階で弁護士に相談するべきかを判断できる体制を整えることです。
弁護士との協議は単発で終えるべきではなく、継続的な情報共有が必要です。企業側が債権の状況を正確に伝え、弁護士が法的対応の可能性を示し、双方で最適な回収方法を選択していくという姿勢が求められます。組織的な債権管理では、この連携が回収成果を大きく左右することになります。

まとめ

債権回収において「ケースバイケースだから仕方がない」という考え方は、一見柔軟で合理的に聞こえるものの、企業規模が大きくなるほどその限界が明らかになります。担当者による判断のばらつき、経験不足による対応遅れ、回収漏れの発生、データ管理の不備など、個別判断に依存する運用は多くのリスクを抱えています。だからこそ、債権回収はルール化し、誰が担当しても一定の水準で処理できる体制を整えることが企業にとって不可欠です。
その第一歩が、年輪調べによる滞留期間の可視化です。滞留期間は貸倒リスクを左右する最も明確な指標であり、正しく分類することで業務全体の優先順位が整理されます。そのうえで、債権の種類ごとに適切な年数基準を設定することで、個別の事情を踏まえた合理的な運用が可能になります。これは、無理に一律化するのではなく、債権の属性に応じた最適なルールを設計するという作業にほかなりません。
さらに、債権回収は「機」によって結果が左右される業務であるため、ルール化だけでは不十分です。状況が動いた債権を逃さず回収に結びつけるためには、柔軟な運用が欠かせません。ルールが軸でありつつ、例外的なチャンスを適切に拾い上げられる体制こそ、実務で高い成果を生むことにつながります。
そして、法的な対応が必要な債権については、弁護士との連携が有効です。金額が大きい場合だけでなく、相手方が特殊なケースや交渉力が求められる場面では、弁護士の介入が回収成果を大きく高める可能性があります。費用対効果を踏まえつつ、自社対応と弁護士対応を切り分けることが重要です。
最終的に、債権回収のルール化は単なる効率化の手段ではなく、企業のリスク管理そのものを強化する取り組みです。ルールを定め、状況に応じて柔軟に運用し、必要に応じて専門家を活用する。この3つの柱を組織として確立することで、債権回収ははるかに安定し、持続的な業務改善が可能になります。
当センターでは公認会計士の知見も活かして債権回収の最適化をご提案しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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