カスハラ対策、いったい何をどこまでやらないといけないの?

改正労働施策総合推進法の施行日が来年10月1日に決定

来年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法では、企業に対してカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に関する対応方針の明確化や相談体制の整備が義務付けられます。企業が顧客からの無理難題や暴言、威圧行動に苦しむ従業員を守る体制を構築することが、法律上の要請として明確に位置づけられた点は非常に大きい意味を持ちます。これまで、多くの企業ではカスハラ対応を現場の経験や個々の判断に委ねていましたが、これが二次被害や三次被害を招くことも少なくありませんでした。たとえば、特定の従業員に過剰なクレーム対応が繰り返し押しつけられ、心身を疲弊させてしまうケースは後を絶ちません。また、現場が萎縮し、通常業務に影響が出る場合もあります。
カスハラは単なるクレーム対応の延長線ではなく、従業員の安全と業務の継続に直結する重大な企業課題です。そのため、企業は方針を明確化し、相談窓口や責任者を定め、対応手順を文書化するなど、組織的に取り組む必要があります。
そこで本稿では、企業が取り組むべきカスハラ対策の基本的な考え方や、具体的な体制整備の方向性について整理します。改正法の施行によって求められるものは単なる形式的な体制整備ではなく、従業員が安心して働ける環境づくりそのものです。法律上の義務として対応方針を掲げるだけでは十分とはいえず、実際の現場で運用できる仕組みを構築することが肝心です。企業が「どこまでやれば十分なのか」と不安に感じる背景には、カスハラの形態が多様化し、従来のクレーム対応の枠組みでは捉えきれない事案が増えている現状があります。まずは、カスハラの本質を理解し、対応方針を全従業員に共有することが第一歩となります。

カスハラは現場対応は絶対ダメ。誰がどう対応するかを明確に

カスハラの多くは、何らかのミスや誤解に端を発することが多いものです。しかし、ミスをした従業員本人がそのまま対応すると、相手が増長し、要求がよりエスカレートする危険性があります。ミスをした本人は心理的に弱い立場に置かれているため、強く主張できず、相手の勢いに押されてしまうこともあります。その結果、相手が過度な要求をするようになり、事態がより深刻化する可能性があります。そのため、ミスに起因するケースであっても、対応するのは本人ではなく、その上司や責任者であるべきです。第三者の立場から客観的にミスの内容を整理し、必要なお詫びの程度と範囲を検討したうえで話し合うことで、冷静な対応が可能になります。
また、窓口を一本化することは現場の負担軽減に大きく寄与します。たとえば、コールセンターを設置し、クレームや問い合わせを集約すれば、現場の従業員は通常業務に集中できます。窓口を明確にしておくことで、顧客もどこに連絡すればよいか分かりやすくなり、無秩序な現場突撃を防止できます。さらに、重度のカスハラが発生したとき、どのタイミングで顧問弁護士に頼るかも明確にしておく必要があります。顧問弁護士が対応を引き受けることで、相手に対して企業としての強い姿勢を示すことができ、従業員が精神的な負担を抱えずに済みます。企業内で「この類型のカスハラが発生した場合は弁護士にエスカレーションする」という基準を設けることは極めて重要です。対応の線引きを明確にし、従業員自身が抱え込まない仕組みこそ、対策の中心となるべきです。

近時のカスハラの例と対応方法

カスハラと一口に言っても、その内容は多種多様です。企業は発生しうる類型ごとに対応方法を定め、従業員が迷わずに行動できるようにする必要があります。まず、過剰な要求をするケースがあります。たとえば、商品の値引きを執拗に要求したり、無償提供を求めたりする場合です。このような要求は、現場レベルでは判断が困難であり、現場従業員が対応し続けると状況が悪化します。そのため、要求をのめるか判断できる役職者が直接対応し、企業として不当な要求であると判断した場合は毅然と断る必要があります。権限を持つ者が明確に拒絶することで、企業としての方針が伝わり、無用な混乱を避けられます。
次に、暴力的な行為や精神的攻撃を伴うケースがあります。怒号、暴言、机を叩く行為、脅迫めいた要求などは、刑事事件に発展する可能性があります。そのため、従業員の安全を最優先にし、証拠を確保する体制を整えておく必要があります。録画・録音の手順を明文化し、危険を感じた場合には速やかに警察に相談できるルートを確立すべきです。また、大声を出して威圧するような客が現場にいる場合、他の客への悪影響が生じるため、まずは人目の少ない場所へ誘導し、周囲への影響を最小限にする措置が必要です。その後、責任者が対応し、必要に応じて退店を求める判断も行うべきです。
重要なのは「従業員が対応に迷わない仕組み」を整えることです。どの類型に該当するか、誰にエスカレーションするかを明確にし、現場に判断を押し付けない体制づくりこそがカスハラ対策の基盤になります。

SNS型カスハラの対応方法

近年、カスハラの新しい形として「SNSで悪口や誤情報を拡散する」タイプが増加しています。従業員の接客態度に不満を持った客が、写真付きで投稿し、名指しで批判するケースも珍しくありません。このような場合、拡散力が非常に強いため、企業にとっての レピュテ―ショナルリスク は極めて高いものになります。従業員のプライバシー保護の観点からも、名札に本名を記載することは避けるべきであり、ニックネーム制の導入が推奨されます。プライバシーが守られることで、従業員がSNS上で不必要に攻撃されるリスクを軽減できます。
SNSで悪評が拡散された場合は、そのまま放置するのではなく、自社の公式アカウントで事実関係を明確に示すことが重要です。事実無根であれば毅然と否定し、誤情報には正確な情報を提示する姿勢が求められます。企業姿勢が明確であれば、ユーザーからの信頼を失うことなく、逆に透明性を評価されることもあります。ただし、発信者が悪質で、名誉毀損等に該当する場合には、顧問弁護士を通じて発信者情報開示請求に踏み切るべきです。どの程度で法的措置に移るか、企業内で基準を定めておくことで、迅速な判断が可能になります。必要であれば損害賠償請求に進むことも考慮しなければなりません。
SNS型カスハラは、一度拡散すれば取り返しがつかないという点で、従来型カスハラよりも深刻な側面を持っています。そのため、企業は事前に備え、透明性と法的措置を適切に組み合わせた戦略を整えておくことが不可欠です。

予算その他リソース次第

カスハラ対策は「必要だから」といって、無制限に導入できるものではありません。企業には予算も人員も限りがあります。そのため、現実的に運用できる範囲で、最大限効果を発揮する仕組みを構築することが求められます。しかし、カスハラは従業員の健康被害、生産性低下、離職など重大な損失につながるため、対策に予算を割くことは企業にとって投資に等しいものです。特に管理職はカスハラ対応能力を磨き、どのようなケースが危険で、どのように対処すべきかを正確に理解する必要があります。
また、顧問弁護士をうまく活用することも有効です。法的観点から対応方針を整理し、企業ごとの事情に合ったマニュアルを整備することで、現場の負担は大幅に軽減されます。顧問弁護士との打ち合わせを定期的に行い、最新の事例やリスクを把握することも重要です。さらに、過去に社内で発生したカスハラ事案を分析し、どこに問題があったのかを検証することで、より高度な対策を構築できます。同じ失敗を繰り返さないためにも、情報共有と改善は不可欠です。
カスハラ対策は「やれば終わり」ではなく、継続的にアップデートすべき分野です。企業は限られたリソースの中で、長期的な視点に立った対策を検討し続ける必要があります。

まとめ

カスハラ対策は、企業の安全配慮義務や労務管理の観点から、今後ますます重要性を増していきます。改正法の施行により、企業は対応方針を掲げるだけでなく、実際に機能する体制をつくることが求められます。現場任せにせず、誰がどのように対応するかを体系化し、従業員が迷わない仕組みをつくることが、最も基本的でありながら最も重要な対策です。また、カスハラの内容は多様化しており、過剰要求、暴力的行為、精神的攻撃、SNS拡散型など、類型ごとに異なる対処法を整える必要があります。
さらに、企業はリソースの限界を踏まえながらも、予算を確保し、管理職の教育や顧問弁護士の活用を通じて、より高いレベルの対策を追求すべきです。カスハラは企業にとって深刻な損失を引き起こしうるリスクであり、その対策は従業員の安心と企業の信用を守る基盤となります。企業の体制整備と従業員教育、そして外部専門家の協力を組み合わせ、継続的に改善を図ることが、これからの時代の標準となるべき姿といえます。
当センターでは、官公庁のカスハラ対応も任せられた専門家が御社のカスハラ対応体制を全般的に支援いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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