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マタハラが問題となるケースが増加
企業内においては、さまざまなハラスメントが生じやすい環境が存在します。その中でも、近年特に問題として顕在化しているのがマタニティハラスメント、いわゆるマタハラです。働き方改革やダイバーシティ推進が叫ばれる中で、妊娠や出産、育児と仕事の両立に対する関心は高まっていますが、それに比例するように、現場レベルでは摩擦や軋轢が表面化しやすくなっているのが実情です。
従来、ハラスメントといえばパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントが代表例として認識されてきました。これらについては、多くの企業で研修が実施され、何が問題行為に当たるのかについて一定の理解が浸透しています。そのため、露骨な言動は減少傾向にあるといえるでしょう。
しかしながら、マタニティハラスメントについては事情が異なります。妊娠や出産という個人的かつデリケートなテーマが関わるため、日常の何気ない会話や配慮のつもりの発言が、結果として相手を傷つけるケースが少なくありません。また、本人に悪意がない場合が多く、むしろ善意や軽口の延長線上で発生することが多い点も特徴的です。
さらに、業務の引き継ぎや人員配置の問題が絡むことで、周囲の従業員に負担がかかる場面もあり、その不満が言動として表出しやすい環境が整ってしまうことも見逃せません。このように、マタハラは単なる個人の問題ではなく、組織全体の構造とも密接に関係している点に難しさがあります。
こうした背景から、マタニティハラスメントは表面化しにくい一方で、確実に職場環境を悪化させる要因となり得ます。そこで本稿では、このようなマタハラの具体的な内容と、それに対する実務的な対策について整理していきます。
マタハラの具体例
マタニティハラスメントとは、妊娠や出産、育児に関連して、該当する女性に対して精神的苦痛や不快感を与える言動を指します。その態様は多岐にわたり、一見すると些細に見える発言であっても、状況や受け止め方によっては重大な問題となり得ます。
典型的な例としてまず挙げられるのは、妊婦本人や生まれてくる子ども、あるいは生まれたばかりの赤ちゃんの容姿について揶揄するような発言です。これは明確に不適切であり、冗談のつもりであっても到底許容されるものではありません。こうした言動は人格を否定するものであり、ハラスメント性が極めて高いといえます。
また、育児休暇を取得する同僚に対して、「皆が働いているのに、一人だけ休めていいよね」といった発言をするケースも見られます。このような言葉は一見すると軽い冗談のように聞こえるかもしれませんが、受け手にとっては罪悪感や疎外感を生じさせる原因となります。育児休暇は制度として認められているにもかかわらず、それを利用すること自体を否定するニュアンスを含んでいるため、マタハラに該当する可能性が高いといえます。
さらに問題となるのは、育児休暇の取得や妊娠そのものに対して「周囲に迷惑がかかる」といった発言をするケースです。たとえば、「あなたが休むとこちらが大変になる」「他の人にしわ寄せがいっている」といった言い方は、直接的でなくとも圧力として機能します。このような発言は、制度の利用を抑制する効果を持ち、結果として本人の権利行使を妨げるおそれがあります。
加えて、昇進や評価に関して不利益な取り扱いを示唆するような言動も見逃せません。「今は大事な時期だから昇進は難しいかもしれない」といった発言が、実質的に妊娠や出産を理由とした差別的扱いにつながる場合もあります。明示的でなくても、こうした示唆は強い心理的圧迫を生みます。
このように、マタハラは明確な暴言だけでなく、日常会話の中に潜むさりげない言葉や態度として現れることが多く、その認識が不十分であると容易に発生してしまう点に注意が必要です。
育児休暇は権利の行使
育児休暇の取得は、単なる個人的な都合ではなく、法律や会社の制度に基づいた正当な権利の行使です。企業においては就業規則や関連法令により、一定の条件を満たす従業員に対して育児休暇の取得が認められており、これは労働者として当然に保障されるべきものです。
もちろん、業務の都合を一切考慮せずに突然休暇を取得するような行為は、職場に混乱をもたらす可能性があります。しかし、事前に申請し、必要な手続きを踏んだうえで取得する場合には、何ら問題はありません。むしろ、制度として整備されている以上、それを適切に利用することが前提となっています。
それにもかかわらず、育児休暇の取得に対して暗に否定的な態度を示したり、「本当に休む必要があるのか」と疑問を呈したりする言動は、権利行使に対する不当な干渉といえます。こうした態度は、表面的には配慮や確認のように見える場合もありますが、受け手にとっては強いプレッシャーとなり、結果として制度利用をためらわせる要因となります。
また、職場全体としても、育児休暇は個人の問題ではなく、組織として支えるべき仕組みであるという認識が不可欠です。特定の個人だけが負担を背負うのではなく、チーム全体で業務を分担し、円滑に運営する体制を構築することが求められます。そのためには、日頃から業務の可視化や共有を進めておくことが重要です。
さらに、育児休暇を取得した従業員が復帰した後のフォローも重要な要素です。復帰後の働き方や業務内容について柔軟に対応することで、長期的な人材活用につながります。短期的な負担だけに目を向けるのではなく、企業全体の持続可能性という観点から制度を捉えることが必要です。
このように、育児休暇は個人の権利であると同時に、組織として適切に運用すべき制度であり、その正当性を正しく理解することがマタハラ防止の基盤となります。
不快に思われることがハラスメント
ハラスメントの判断において重要なのは、行為者の意図ではなく、受け手がどのように感じたかという点です。この考え方はセクシュアルハラスメントにおいて広く知られていますが、マタニティハラスメントにおいても同様に適用されます。すなわち、発言者に悪意がなかったとしても、相手が不快だと感じた時点で、ハラスメントと評価される可能性があるのです。
妊娠や出産、育児といったテーマは、個人の身体的・精神的状態に深く関わるものであり、非常にデリケートです。そのため、軽い気持ちで発した一言が、相手にとっては大きな負担やストレスとなることがあります。たとえば、「大変そうだね」「休めてうらやましい」といった何気ない言葉であっても、状況によっては皮肉や批判として受け取られることがあります。
また、同僚が育児休暇を取得した場合、周囲の業務負担が増加することは現実的に避けられません。その結果として、不満や愚痴が生じること自体は自然なことです。しかし、その感情をそのまま言葉にしてしまうと、当事者に対する攻撃と受け取られる可能性があります。「忙しくなって困る」といった発言であっても、相手にとっては強い心理的圧迫となり得ます。
さらに、職場という閉鎖的な環境では、一度発せられた言葉が長く記憶に残りやすく、関係性に影響を与え続けます。特に、妊娠や出産といった人生の重要な局面において受けた言動は、当事者にとって忘れがたい経験となることが多いです。
したがって、発言や行動に際しては、「自分はどう思うか」ではなく、「相手がどう感じるか」という視点を常に持つことが重要です。これは単なる配慮にとどまらず、職場環境を健全に保つための基本的な姿勢といえるでしょう。
経営レベルの対策
マタニティハラスメントを防止するためには、個々の従業員の意識改善だけでは不十分であり、経営レベルでの体系的な対策が不可欠です。マタハラが発生する背景には、出産や育児に伴う業務の偏りや負担の集中といった構造的な問題が存在しているため、それを解消する仕組みづくりが求められます。
まず重要なのは、人員配置の柔軟性を確保することです。妊娠や育児休暇の取得が予定される場合には、あらかじめ代替要員を確保したり、業務の分散を図ったりすることで、特定の従業員に過度な負担がかからないようにする必要があります。これにより、周囲の不満の発生を抑制し、結果としてハラスメントの芽を摘むことが可能となります。
また、業務の属人化を防ぐ取り組みも重要です。特定の人しか担当できない業務が多い場合、その人が休暇を取得した際の影響が大きくなり、不満や摩擦の原因となります。業務マニュアルの整備や情報共有の徹底により、誰でも一定程度対応できる体制を構築することが求められます。
さらに、社内教育や啓発活動も欠かせません。育児休暇は会社が認めた制度であり、それを利用することは正当な権利であるという認識を、全従業員に対して繰り返し伝える必要があります。単発の研修ではなく、継続的に意識づけを行うことで、無意識の偏見や誤解を是正していくことが可能となります。
加えて、相談窓口の設置や内部通報制度の整備も有効です。被害を受けた従業員が安心して相談できる環境を整えることで、問題の早期発見と迅速な対応が可能となります。これにより、深刻化を防ぎ、職場全体の信頼性を高めることにもつながります。
マタニティハラスメントは、些細な不満や誤解から無意識に生じることが多い問題です。しかし、その背景にある構造的要因に目を向け、適切な対策を講じることで、十分に防止・改善することが可能です。経営層が主体的に取り組むことこそが、実効性のある対策の鍵となります。
まとめ
マタニティハラスメントは、他のハラスメントと比較して軽視されがちであるものの、実際には職場環境や従業員の心理に大きな影響を与える重要な問題です。その特徴として、明確な悪意を伴わない日常的な言動の中で発生しやすい点や、業務負担の偏りといった構造的要因と結びついている点が挙げられます。
具体的な言動としては、妊娠や出産に関する不用意な発言や、育児休暇の取得に対する否定的なコメントなどがあり、これらは本人にとって大きなストレスとなり得ます。また、育児休暇は制度として認められた正当な権利であるにもかかわらず、その行使に対して無言の圧力がかかるような状況は、組織として健全とはいえません。
さらに重要なのは、ハラスメントの判断基準が行為者の意図ではなく、受け手の感じ方にあるという点です。この点を理解しないままでは、無自覚のうちに他者を傷つける行動を繰り返してしまうおそれがあります。したがって、日常のコミュニケーションにおいては、常に相手の立場や感情に配慮する姿勢が求められます。
加えて、マタハラの防止には個人の意識改革だけでなく、組織としての取り組みが不可欠です。人員配置の見直しや業務の標準化、社内教育の充実、相談体制の整備など、多角的な対策を講じることで、問題の発生を未然に防ぐことができます。
最終的には、妊娠や出産、育児といったライフイベントを特別視するのではなく、誰もが経験し得るものとして自然に受け入れる職場文化を醸成することが重要です。そのためには、制度の整備と意識の改革を両輪として、継続的な改善を行っていく必要があります。
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