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債権回収のやり方を目線を変えて再考してみる
債権回収の方法は、実務の世界ではある程度定型化しています。請求書の送付、督促状の発送、電話やメールでの連絡、支払督促や訴訟の提起といった流れは、多くの企業や専門家にとって馴染み深いものです。そのため、債権回収というと「決まった手順を淡々と進めるもの」という認識を持っている人も少なくありません。
しかし、これらの手法を債務者の側から見たとき、すべてが同じように機能しているとは限りません。債務者の性格、経済状況、職業、法的知識の有無などによって、ある手法は強く効き、別の手法はほとんど意味をなさないという現実があります。形式的には正しい債権回収を行っていても、実際の回収率が低ければ、それは「うまくいっている」とは言えないでしょう。
債権回収には必ずコストがかかります。書類作成の手間、担当者の人件費、場合によっては弁護士費用や裁判費用も発生します。時間も同様に重要なコストです。回収に時間がかかるほど、債権の価値は実質的に目減りしていきます。だからこそ、費用や手間をかけて行う以上、成果につながる方法を選択する必要があります。
そのためには、債権者側の論理だけでなく、債務者が「何を恐れ」「何を軽視し」「どこで態度を変えるのか」を理解する視点が不可欠です。債務者にとって実際に効く手段は何なのか、逆にほとんど心理的負担にならない行為は何なのかを冷静に見極めることが、回収効率を高める近道になります。
そこで本稿では、一般論として語られがちな債権回収手法を、あえて債務者目線から見直します。感情論や理想論ではなく、実務において成果を上げるために、どの手法が有効で、どの手法が形骸化しやすいのかを整理していきます。
任意請求は効かない人には全く効かない
債権回収の第一歩として請求書を送付することは、ほぼすべての現場で行われています。請求書は支払義務の存在を形式的に示すものであり、支払期日や金額を明確にする役割を果たします。多くの債務者にとって、請求書は「うっかり忘れていた支払い」を思い出させるリマインドとして機能します。
実際、支払意思があり、かつ支払能力もある人に対しては、請求書だけで十分な効果があります。請求書が届いた時点で支払いを行う人や、期日までに振込を済ませる人は少なくありません。この層に対しては、丁寧で分かりやすい請求書を送ることが、最もコストパフォーマンスの高い回収手段になります。
しかし、問題となるのは、請求書を送っても反応がない債務者です。支払意思がない人、あるいは支払能力そのものが欠如している人にとって、請求書はほとんど心理的負担になりません。封筒を開けずに放置する、内容を読んでも無視する、あるいは最初から「どうせ何もされない」と高をくくるケースも多く見られます。
このような債務者に対して、請求書を何度も送り続けることは、債権者側の自己満足に終わる危険があります。形式的には対応しているように見えても、実質的には何も進んでいないからです。むしろ、時間だけが経過し、回収可能性が下がっていく結果になりがちです。
債務者目線で見ると、任意請求は「強制力のないお願い」に過ぎません。法的な不利益が直ちに生じるわけでもなく、無視しても生活が直接脅かされるわけでもありません。そのため、一定期間を経過しても支払いがない場合には、速やかに次の手段へ移行する判断が求められます。任意請求が効く層と効かない層を早期に見極めることが、無駄なコストを抑えるうえで重要になります。
裁判は債務者にもコスパが悪い
任意の請求に応じない債務者に対する次の選択肢として、支払督促や訴訟といった法的手段があります。これらは債権者にとって負担が大きい手続であるため、できれば避けたいと考える人も多いでしょう。しかし、債務者目線で見ると、裁判は必ずしも「無視してよいもの」ではありません。
まず、訴訟を提起されるという事実そのものが、債務者にとっては大きな心理的負担になります。裁判所から書類が届くことで、事態が単なる請求段階から、法的紛争の段階に移行したことを強く意識させられます。これは、請求書とは明確に異なる点です。
裁判管轄については、原則として被告の住所地を管轄する裁判所が用いられますが、金銭債務の多くは持参債務とされるため、実務上は原告の住所地を管轄する裁判所に訴訟が提起されることも少なくありません。債務者からすれば、平日に時間を作り、相手方の所在地近くの裁判所まで出向かなければならない可能性があります。
この出頭の負担は、想像以上に重いものです。仕事を休まなければならない場合もあり、交通費も自己負担です。さらに、裁判の進行や主張内容が分からない不安もつきまといます。債務者にとって、裁判は金銭面だけでなく、時間と精神面のコストも非常に高い手続です。
一方で、債権者側は「費用倒れになるのではないか」「時間がかかりすぎるのではないか」といった懸念から、訴訟提起を後回しにしがちです。しかし、債務者が裁判を嫌がるという現実を踏まえると、法的手段を取ること自体が交渉力を高める要素になります。裁判は債権者だけでなく、債務者にとってもコストパフォーマンスの悪い選択肢であるという点を理解することが重要です。
給与差押は怖い
債務者が最も恐れる事態の一つが、敗訴判決後に行われる給与差押です。給与差押は、債務者の生活基盤に直接影響を及ぼす手続であり、心理的なインパクトは非常に大きいものがあります。単なる書類上のやり取りとは異なり、日常生活に現実的な制限が加わるからです。
給与差押が行われると、債務者本人だけでなく、給与を支払う会社にも影響が及びます。会社の経理担当者は、裁判所からの差押命令に基づき、差押可能額を計算し、毎月その金額を控除して送金しなければなりません。この事務負担は決して軽いものではありません。
その結果、会社側は差押を受けている従業員に対して、表立っては言わなくとも、好ましくない評価を持つことがあります。職場で事情を説明しなければならない場面が生じることもあり、債務者にとっては居心地の悪い状況が続きます。実務上、給与差押をきっかけに退職を余儀なくされるケースも珍しくありません。
このように、給与差押は債務者の社会的立場や生活の安定を大きく揺るがします。そのため、債務者は給与差押を極端に嫌がる傾向があります。一方で、債権者側は手続の煩雑さや回収までの時間を理由に、給与差押を躊躇しがちです。しかし、債務者目線で見れば、これほど実効性の高い手段は多くありません。
給与差押は、単なる回収手段ではなく、債務者の行動を変える強い動機付けになります。この現実を正しく理解することが、債権回収戦略を考えるうえで欠かせません。
相手の嫌がることを躊躇せずに進める
債権回収がうまくいかない背景には、債権者側の心理的なブレーキが存在することがあります。失敗したらどうしよう、費用ばかりかかってしまうのではないか、関係が悪化するのではないかといった不安が、判断を鈍らせるのです。特に企業では、強硬な対応を避ける文化が根付いている場合もあります。
しかし、普通に支払をしない債務者に対して、穏便な手法を続けても状況が改善することは稀です。債務者目線で考えると、「強い対応を取られていない」という事実は、そのまま「まだ大丈夫だ」という安心材料になります。この安心感こそが、支払いを先延ばしにする最大の要因になります。
そのため、相手が何を嫌がるのかを冷静に見極め、それを躊躇せずに進める姿勢が不可欠です。相手の立場や感情を理解することと、相手に配慮しすぎることは別物です。債務者の弱点を把握し、そこに現実的な圧力をかけることが、結果的に早期解決につながる場合も多くあります。
債権回収は、理屈だけで進むものではありません。心理戦の側面が強く、どちらが主導権を握るかによって展開が大きく変わります。相手に遠慮して手を緩めれば、その隙を突かれることになります。逆に、相手に弱みを見せず、一貫した姿勢を示すことで、債務者の態度が変わることもあります。
こうした攻防の中で重要なのは、感情的にならず、冷静に手段を選択することです。相手の嫌がることを理解したうえで、それを戦略的に使うことが、実務としての債権回収の現実です。
まとめ
債権回収を成功させるためには、法的に正しい手続きを踏むことだけでは不十分です。債務者がどのように感じ、どの段階で行動を変えるのかを理解することが、実務上の成果を大きく左右します。債務者目線に立つというのは、同情することではなく、現実的な反応を冷静に分析することを意味します。
任意請求は、支払意思と能力のある債務者に対しては有効ですが、そうでない相手にはほとんど意味を持ちません。裁判は債権者だけでなく、債務者にとっても大きな負担であり、その事実を理解すれば、法的手段を取ることへの心理的ハードルは下がります。さらに、給与差押は債務者の生活や社会的立場に直接影響を与えるため、極めて強い抑止力を持つ手段です。
債権回収は、相手の反応を見ながら段階的に進める必要がありますが、その際に重要なのは躊躇しないことです。過度に慎重になりすぎると、かえって回収の可能性を下げてしまいます。相手の嫌がることを正しく理解し、それを戦略的に使うことが、結果として双方にとって無駄な時間とコストを減らすことにつながります。
債務者目線で債権回収を再考することは、感情論を排し、現実的な成果を追求するための重要な視点です。この視点を持つことで、形式にとらわれない、実効性の高い債権回収が可能になります。
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