
このページの目次
会社の厄介事。全部まとめて顧問弁護士に丸投げしたいが
企業活動を続けていると、日常業務とは別の「厄介事」が必ず発生します。近年は企業を取り巻く法務領域が複雑化しており、以前なら総務担当や管理部門だけで対処できた問題も、専門的知識や迅速な判断が求められる場面が増えています。特に債権回収に関するトラブルでは、支払いの長期化だけでなく、資産隠しを行う相手や、そもそも連絡が取れなくなる相手も存在し、企業の負担は大きくなる一方です。また、理不尽な要求を繰り返したり、必要以上に感情的になったりする相手も増えており、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)に該当する行為で社内対応が疲弊してしまう事例も珍しくありません。
このような背景があるため、経営者や担当者としては、「全部顧問弁護士に任せてしまえれば楽なのに」と考えたくなるのは自然なことです。弁護士が前面に出れば、相手が過激な主張を控えることが多く、手間と心理的ストレスの軽減という点でも大きなメリットがあります。しかし、現実には弁護士費用が問題になります。案件数が多い企業であれば、すべてを外部弁護士に委ねると費用が膨れ上がり、企業としての収益を圧迫してしまいます。顧問契約を結んでいても、個別案件ごとに追加費用がかかる場合もあるため、丸投げは難しいというのが実情です。
そこで重要なのが、弁護士と社内対応の「役割分担」です。どの業務を社内で処理し、どの業務は弁護士に依頼すべきなのかを明確に区別し、効率的な体制を整えることが、今後の企業運営において極めて重要になってきます。そこで本稿では、この複雑化した企業法務の中でも特に債権回収を中心に、どのような視点で弁護士と社内対応の線引きを行うべきなのかを、さまざまな事例を踏まえながら考えていきます。
保険会社のケース
損害保険会社の業務は、従来から交通事故の保険金支払いに関する対応が中心でした。事故が発生した場合、保険会社の担当者が相手方や加入者と連絡を取り、必要書類を集め、過失割合などの調整を行うことで、迅速に保険金を支払う体制を整えることが求められてきました。そのため、多くの業務は社内対応が基本とされてきました。担当者は豊富な経験を積み、事故対応のプロとして機能してきたため、外部弁護士に任せなくてもほとんどの案件を解決できました。
しかし、近年は状況が変わりつつあります。事故の当事者の中には、従来に比べて対応が難しい相手も増えています。具体的には、わずかな不満を理由に過剰な要求を繰り返す相手、法律知識を盾に強気な交渉を進めてくる相手、はじめから弁護士を立ててくる相手など、従来とは異なる対応が必要なケースが増えています。さらに、SNSによる情報拡散が容易になったことで、「不当な扱いを受けた」と投稿され、企業イメージを損なうリスクも高まりました。
このような複雑なケースまで社内で抱え込んでしまうと、担当者の精神的負担は増大し、本来注力すべき案件に手が回らなくなります。また、経験の浅い担当者が対応してしまった結果、トラブルが長期化し、かえってコストが膨らむ場合もあります。そのため、保険会社の中には、一定の複雑な案件については早い段階で外部弁護士に任せる運用を取り入れるところが増えてきました。弁護士が入ることで交渉がスムーズになり、担当者が余計なストレスを抱えることなく業務を進められるというメリットもあります。
保険会社の例は、企業にとっての役割分担の在り方を考える上で参考になります。つまり、社内で対応できる範囲と、専門家の手を借りたほうが良い案件をきちんと区別することで、全体のサービス品質を維持しつつ、担当者の負担を減らし、結果として企業全体の効率化につながります。
給食費回収のケース
学校における給食費の未納問題は、多くの自治体で深刻な課題となっています。給食費は一般的に数千円から数万円程度であり、金額自体は比較的少額です。しかし、未納が続くと学校や自治体の財政を圧迫し、結果として教育サービスの質にも影響が生じます。そこで学校側としては回収の必要性があるものの、少額ゆえに弁護士に依頼すると費用倒れになってしまうという問題があります。
このような事情から、給食費回収では社内対応が主流となってきました。しかし、担当教員が督促や手続を行うには限界があります。教員は教育活動が本務であり、法的手続の専門家ではありません。督促連絡が感情的なトラブルに発展する可能性もありますし、法的に正しい手順を踏めなければ、かえって相手に強く出られてしまう可能性もあります。そのため従来は、自治体の法務部門や外部の法務スタッフがサポートする体制が取られてきました。
ところが近年は、AIの活用により、学校側がより簡易に法的手続を進められる仕組みが整いつつあります。例えば、必要書類の自動作成、督促状の文面チェック、簡易裁判所への訴訟提起書類の作成など、これまで専門知識がなければ難しかった作業をAIが補助することで、学校側の負担が大幅に減りました。特に少額訴訟や支払督促の手続は定型的な部分が多く、AIとの相性が良いため、導入を進める自治体は年々増えています。
このように、給食費回収のように少額であり体制が限られる業務は、社内対応とAIの組み合わせが有効です。わざわざ弁護士に依頼して企業や学校側の負担を増やす必要はありません。むしろ、簡易な法務案件は社内で処理し、より複雑な案件にこそ外部の専門家を活用するというメリハリが求められています。今後もAIによる自動化技術が進めば、社内対応で完結できる範囲はさらに広がっていくでしょう。
カスハラ対応では劇的な差が
カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラが企業に与える負担は年々大きくなっています。顧客対応窓口には、毎日のように「同じ内容を何度も電話してくる」「執拗に謝罪を要求する」「社員の個人名を出して責め立てる」といった行為が寄せられ、対応する社員が精神的に追い詰められるケースも増えています。企業としては顧客の声に耳を傾ける姿勢が必要ですが、度を超えた要求は本来応じる必要がないばかりか、社員を守るためにも毅然とした対応が求められます。
しかし、カスハラへの社内対応には限界があります。いくら丁寧に説明しても、相手が不満をぶつけ続ける場合、担当者は過度なストレスを抱えてしまいますし、対応時間が長くなるほど本来業務が滞ってしまいます。さらに、対応を誤ると相手の怒りを増幅してしまうこともあり、現場の担当者ではコントロールが難しい場面が数多く存在します。
このようなケースでは、窓口を顧問弁護士に変更するだけで状況が一変することがあります。弁護士が対応すると聞いた瞬間に、過剰な要求を控える相手は少なくありません。自分の言動が法的な問題になる可能性を意識し、態度を改める場合が多いからです。弁護士は論理的かつ冷静に対応するため、感情的なやり取りが続いていた場面でも、短期間で解決が図れる可能性が高まります。
企業にとって最も大切なのは、社員の安全と健全な業務環境を守ることです。効率化の観点だけでなく、社員のメンタルヘルスという観点から見ても、カスハラを「厄介だ」と感じた段階で早期に顧問弁護士へ任せるべきです。無理に社内で引き受け続けることはリスクであり、外部専門家を介入させることで企業全体の健全性を保つことができます。
事案の難度で役割分担を決める
企業内で何らかのトラブルが発生した際、最初に必要なのはその事案の難度を正確に判定することです。難度が低く、定型的に処理できる業務であれば、社内対応やAI支援による処理が最も効率的です。これにより、顧問弁護士の依頼コストを抑えられるだけでなく、社内の法務人材の育成にもつながります。特に若手社員にとっては、簡易な案件を通じて法律知識を身につけられるため、企業としての総合的な法務能力を底上げする効果があります。
一方、厄介な案件を無理に社内で処理しようとすると、かえって事態を悪化させる可能性があります。相手が複雑な法的主張をしてきたり、感情的なクレームを繰り返す場合、担当者が対応を誤ってしまうとトラブルが長期化し、追加コストが発生したり企業イメージを損なったりするリスクがあります。こうした事態を防ぐためには、一定以上の難度があると判断した段階で、外部の顧問弁護士へ一貫した対応を任せることが重要です。
企業は限られたリソースの中で運営されています。人員、予算、時間といった資源を無駄なく配分するためにも、事案の難度に応じた役割分担を明確にし、外部と内部のどちらが対応すべきなのかを冷静に判断することが求められます。顧問弁護士という外部リソースを適切に活用し、社内の業務負担を調整することで、効率的かつ安全な企業活動が可能になります。最終的には、社内外の知恵をうまく活用しながら最適な解決方法を探る姿勢が企業の成長につながります。
まとめ
企業が抱える厄介事には、債権回収、クレーム処理、カスハラ対応などさまざまなものがありますが、それらをすべて顧問弁護士に任せることは現実的ではありません。費用面の負担が大きくなるだけでなく、社内の法務能力が育たないという問題もあります。一方で、難度が高い案件を社内で抱え込むと、対応が長期化したり企業の信用に傷がついたりする可能性があります。つまり、企業にとって最も重要なのは「どこまでを社内で担当し、どこからを外部の専門家に委ねるか」という線引きを明確にすることです。
社内対応が適しているのは、定型的で難度が低い案件です。AIの進化により、これらの業務は自動化が進んでおり、社内人材でも効率的かつ迅速に処理できるようになりました。これにより、弁護士費用の削減と社内人材の育成を同時に実現することができます。
一方、難度が高い案件や感情的対立を伴う案件は、早期の段階で顧問弁護士の関与を求めるべきです。弁護士が入ることで交渉が整理され、相手が過激な主張を控える効果も期待できます。特にカスハラや複雑な法的トラブルについては、外部の専門家が前面に出ることで短期間で事態を収束させられる可能性が高まります。
結局のところ、企業が効果的に運営されるためには、社内と外部のリソースを適切に使い分ける「役割分担」が欠かせません。難度を見極め、適材適所で対処することで、企業はリスクを最小化しながら健全な業務運営を続けることができます。
当センターでは御社の厄介ごとの中でも特に難度の高いものについて外注対応に応じます。下記よりお気軽にご相談ください。

当センターは、弁護士・公認会計士・中小企業診断士・CFP®・ITストラテジストなどの資格を持つセンター長・杉本智則が所属する法律事務所を中心に運営しています。他の事務所との連携ではなく、ひとつの窓口で対応できる体制を整えており、複雑な問題でも丁寧に整理しながら対応いたします。
窓口を一本化しているため、複数の専門家に繰り返し説明する必要がなく、手間や時間を省きながら、無駄のないスムーズなサポートをご提供できるのが特長です。
大阪府を拠点に、東京、神奈川、愛知、福岡など幅広い地域のご相談に対応しており、オンラインでのご相談(全世界対応)も可能です。地域に根ざした対応と、柔軟なサポート体制で、皆さまのお悩みに親身にお応えいたします。
初回相談は無料、事前予約で夜間休日の相談にも対応可能です。どうぞお気軽にご相談ください。
