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給与体系は労働条件の最重要項目
給与は、労働者が職場を選び、定着するかどうかを左右する最も重要な労働条件の一つです。働く人にとって、業務内容や勤務地、福利厚生なども大切ですが、最終的に生活の基盤となるのは給与です。給与がどのように決まるか、その体系に納得できるかどうかは、従業員の忠誠心や定着率に直結します。
もちろん給与は高いに越したことはありません。しかし現実には、すべての企業が高水準の給与を設定できるわけではありません。そのため従業員は単純に額面だけではなく、給与がどのような基準で決まるのか、昇給の見通しがどのように設定されているのかといった点を重視します。つまり「納得感」が得られるかどうかが肝心です。
納得感を支える要素としては、まず透明性があります。昇給や賞与がどのような基準で決まるかが明確にされていなければ、従業員は自分の努力が正当に評価されているのか疑問を持つでしょう。また、公平性も不可欠です。同じような貢献をしているにもかかわらず、部署や上司によって評価が大きく異なるようでは、モチベーションは低下します。さらに、個々の従業員が給与体系に納得できるかどうかも重要であり、これは単に説明を尽くすだけでなく、従業員自身が「理にかなっている」と感じられる仕組みが必要です。
もし給与体系が不透明で不公平だと感じられれば、従業員は「ここにいても報われない」と考え、転職を検討するようになります。反対に、透明性・納得性・公平性を兼ね備えた給与体系を整えることで、従業員の安心感を高め、離職率を下げることができます。給与体系の設計は経営戦略の一部であり、従業員のやる気や定着を左右する根幹にります。そこで本稿では従業員が離職しにくい給与体系の設定について説明します。
成果報酬よりも年功序列が求められている
近年の労働市場を語る際、若い世代は実力主義や成果報酬を好む傾向にあるとよく言われます。しかし、実際の調査や統計をみると必ずしもそうではありません。むしろ、若い人の中でも年功序列型の給与体系を支持する割合は依然として高く、多くの人が安定的な昇給を望んでいます。
なぜ成果報酬より年功序列が好まれるのか。その背景には、入社してすぐの段階で大きな成果を挙げることは難しい、という現実があります。特に未経験の分野で働く若者にとって、いきなり目に見える成果を出すのは容易ではありません。だからこそ、努力を重ねることで確実に昇給が見込める年功序列型は安心感を与えます。
また、安定的に給与が増えていく仕組みは、人生設計を立てやすいという点でも評価されます。結婚や住宅購入、子育てなどのライフイベントに備えるためには、将来の収入の見通しが重要です。成果主義の場合、ある年は大きく稼げても、翌年は不安定になる可能性があります。この不確実性を嫌う人は少なくありません。
さらに、公平性の観点からも年功序列は一定の支持を集めます。年数を重ねれば誰でも昇給できる仕組みは、少なくとも「頑張っても報われない」という感覚を減らします。もちろん、実力のある人にとっては物足りなさを感じる部分もありますが、多数派にとっては安心材料となります。
給与体系を考える上で重要なのは、単に高額を提示することではなく、従業員が「安心できる」と感じられる仕組みを整えることです。その意味で、年功序列は今なお大きな役割を果たしているといえるでしょう。
評価は主観になりがち
成果報酬を導入する際の大きな課題の一つは、評価が主観的になりやすい点です。もし評価基準が数値化できるものであれば、比較的公平に成果を測ることができます。例えば、営業担当者であれば受注額や契約件数といった明確な数値が基準になりやすいでしょう。
しかし、すべての職種が数値で評価できるわけではありません。企画職や事務職、技術職などでは、上司の判断や印象が大きく影響するケースが多々あります。努力しても成果が目に見えにくい場合や、評価者の価値観に左右されやすい場合には、「本当に自分は正しく評価されているのか」と疑問が生じやすいのです。
さらに、評価が主観に依存するということは、日頃の上司との関係が大きく作用します。良好な関係を築いていれば評価が高くなりやすく、反対に相性が悪ければ不利になると感じる人も出てきます。その結果、業務そのものよりも「評価者にどう見られるか」を意識した行動が増え、本来の仕事の効率や創造性が損なわれる可能性があります。
また、こうした評価制度は従業員の不満の温床になりやすく、納得感を欠くと離職の要因にもなります。特に、同僚との比較で不公平感を覚えた場合、その影響は強く現れます。例えば「自分の方が成果を出しているのに評価が低い」と感じれば、その従業員はすぐに転職市場に目を向けるでしょう。
したがって、成果報酬を導入する際には、できる限り評価基準を客観的に設ける工夫が欠かせません。具体的な行動指標や成果物を設定し、主観に頼りすぎない制度設計を行うことが求められます。そうでなければ、せっかくの成果主義も不満を増大させ、かえって離職を促進する結果になりかねません。
仲間のフォローは評価対象?
現代の多くの仕事はチームで進められます。そのため、個人の成果だけでなく、仲間のフォローや後輩の指導といった「見えにくい貢献」が職場の円滑な運営に大きな役割を果たしています。しかし実際の評価基準において、こうしたサポート業務が十分に反映されるケースは多くありません。
例えば、ある従業員が同僚の業務をサポートし、チーム全体の生産性を高めていたとしても、それが数値に現れにくければ評価対象から外されがちです。フォローは日常的に行われるため記録が残りにくく、また「誰がどの程度貢献したのか」を客観的に測定するのは難しいです。その結果、目立つ成果を挙げた人が評価される一方で、チームの基盤を支えた人の努力は見過ごされることが多々あります。
しかし、組織全体の成果を考えれば、仲間を支える存在は欠かせません。もし全員が自分の成果だけを追い求め、周囲の困難を放置すれば、チーム全体の効率は下がります。むしろ、自分の時間を割いてでも他者を助ける人材は、組織にとって極めて貴重です。
したがって給与体系を設計する際には、こうしたサポート業務を何らかの形で評価に反映する仕組みを検討すべきです。例えば、同僚や後輩からのフィードバックを取り入れる「360度評価」の一部にフォロー活動を含めることが考えられます。あるいは、チーム全体の成果を指標に加えることで、個人プレーだけでなく協力行動も報われるようにすることも有効です。
仲間を支える行動は組織文化にも直結します。フォローが軽視されれば、従業員は「助けても評価されない」と感じ、協力的な雰囲気が失われます。逆に、フォローを評価に取り入れれば、従業員は互いに支え合うようになり、定着率向上にもつながります。
やや割安のベースとインセンティブある成果報酬の組み合わせ
給与水準の設定において、単に「高ければ良い」とはいえません。給与が低すぎれば従業員は生活に不安を感じ、すぐに転職してしまいますが、逆に高すぎればモラルハザードを引き起こす可能性があります。つまり、努力をしなくても十分に報われてしまう状況では、従業員が向上心を失い、生産性が低下する恐れがあります。
そこで一つの工夫として注目されるのが、やや割安の年功序列的な基本給に加え、明確に成果と連動するインセンティブを組み合わせる方式です。基本給を同業他社と比較して少し低めに設定することで、企業への貢献が少ない従業員の給与は上がりにくくなります。その一方で、成果を上げた従業員には十分な報酬を与える仕組みにすることで、公平性とやる気の両立を図ります。
この方式の利点は、従業員に努力の方向性を明確に示せる点にあります。「成果を出せば必ず報われる」と実感できれば、従業員は積極的に能力を発揮しようとします。また、基本給を安定的に受け取れるため、生活基盤が脅かされる不安はありません。つまり、安心感と挑戦意欲を同時に引き出せます。
さらに、インセンティブを工夫することで、組織の目標達成に直結させることが可能です。例えば、売上だけでなく、顧客満足度やチーム全体の生産性改善を評価対象に加えれば、個人主義に偏らずバランスの取れた成果が促されます。
このような複合型の給与体系は、従来型の年功序列や単純な成果主義の欠点を補う可能性があります。特に、従業員が「努力すれば正当に報われる」と感じられる設計をすることで、モチベーションを高め、離職率を下げる効果が期待できます。給与は単なる数字ではなく、働く人の心理に大きく影響する要素であることを忘れてはいけません。
まとめ
給与体系は、従業員が安心して働き続けられるかどうかを決める最重要項目です。額面の多寡だけではなく、納得感や公平性、そして将来への見通しが重要であり、これらが欠ければ離職につながります。
従業員の多くが望むのは、成果主義一辺倒ではなく、安定的に昇給できる仕組みです。年功序列的な要素は今なお根強く支持されており、その理由は生活設計や安心感にあります。しかし一方で、評価の主観性やフォロー活動の軽視といった課題も無視できません。これらを改善しなければ、成果主義も年功序列も限界があります。
最適な形として考えられるのは、基本給をやや割安に抑えつつ、成果に応じた明確なインセンティブを組み合わせる方式です。この方法であれば、努力した人が正当に報われると同時に、生活基盤も守られます。また、フォローやチーム貢献といった目に見えにくい活動を評価に含めることで、組織文化も健全に保たれるでしょう。
最終的に、給与体系は企業の価値観や戦略を映す鏡です。従業員の安心と挑戦意欲を両立させる仕組みを整えることこそが、長期的な人材定着と組織の成長につながります。
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