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敷居の高い業種は店も客も機会を逸しがち
葬儀は誰もが避けては通れない出来事ですが、それにもかかわらず「できるだけ関わりたくないもの」として敬遠されがちです。生きているうちに死を意識すること自体に抵抗感がある人が多く、「終活」という言葉が広まりつつある現代においても、具体的な行動に移す人は決して多くはありません。その結果、いざ身内が亡くなったときに初めて「どこに依頼すればよいのか」「何を決めなければいけないのか」と慌てて情報収集を始め、限られた時間と精神的余裕のない中で業者を選び、内容を決めてしまうケースが非常に多く見られます。
このような状況は、実は顧客にとっても業者にとっても不利益です。顧客は十分な検討や比較ができず、自分たちの意向に沿った内容を選び損ねる可能性があります。一方、葬儀社側も、本来であれば提供可能だったサービスや付加価値を伝える機会を逸してしまいます。葬儀という性質上、緊急性が高く準備期間が短いため、理想的な提案ができず「取り急ぎ最低限」のサービスにとどまってしまうことも多いです。
つまり、店側と客側の双方にとって「失われた機会」を生じています。そこで本稿ではこうした背景を踏まえたうえで、葬儀屋がカフェを運営する狙いと注意点を紹介します。
タッチポイント獲得が目的
近年、一部の葬儀社が自社でカフェを運営するという新しい取り組みを始めています。これは一見ミスマッチのようにも思えますが、その裏には非常に合理的な狙いがあります。それは「日常生活の中に自然に溶け込む形で、顧客との接点(=タッチポイント)を増やすこと」です。
従来の葬儀業界においては、顧客が店舗や営業所に足を運ぶのは非常に限られた場面しかありません。しかもそれは大抵の場合、身内の死が差し迫っているか、亡くなった直後という非常時です。心の余裕がない中で業者と初対面し、その場で重要な決断を迫られる――これは本来、あまり望ましい状況ではありません。
そこで、もっと気軽に立ち寄れる空間として、カフェという形態が選ばれたのです。コーヒーを飲んで一息つく、友人とおしゃべりする、読書をする――そんな日常の中で「実はここ、葬儀社が運営しているんです」と知ってもらうことで、心理的な敷居を下げ、企業への信頼感や親近感を高める効果が期待できます。
また、カフェに来る人すべてがすぐに葬儀の依頼人になるとは限りませんが、日常の中に存在することで、将来的なニーズ発生時に第一候補に挙がる確率は格段に上がります。言い換えれば、カフェは「潜在顧客と出会う入り口」として機能していなす。
顧客へのより良い提案が可能になる
葬儀屋が運営するカフェの大きな利点の一つは、顧客に対して無理なく自然な形で情報を提供できるという点にあります。形式ばった打ち合わせや資料請求では得られない、柔らかくリラックスした空間での会話が可能になるため、葬儀に関する不安や疑問、希望を聞き出すハードルが格段に低くなります。
たとえば、カフェ内の一角に終活や遺言、相続に関する小冊子やチラシを置いたり、実際の祭壇や供物のサンプルをさりげなく展示しておいたりすることで、「ちょっと見てみようかな」と顧客の関心を引くことができます。定期的にミニセミナーや相談会を開催することで、葬儀に対する理解を深めてもらうこともできます。
このように、カフェという日常の空間を通じて顧客との信頼関係ができれば、葬儀の際に「何を大事にしたいのか」「誰を中心に据えたいのか」といった価値観を共有しやすくなります。それによって、単なる葬儀パッケージの提供にとどまらず、個々の事情に合わせたオーダーメイドの提案が可能となり、顧客の満足度は飛躍的に向上します。
葬儀とは、一生に一度あるかないかの重要なセレモニーです。その場面で「この会社にお願いしてよかった」と思ってもらえるかどうかは、事前にどれだけ信頼関係を築けたかに大きく左右されます。カフェという選択肢は、そのための橋渡しとして、非常に有効な手段となっているわけです。
まずは身近なところから
「本命の商品・サービスはあくまで葬儀。でもいきなり葬儀の話はしづらい」。そんなジレンマを抱える業種は、実は葬儀業界に限らずさまざまな分野に存在しています。特に葬儀のように、関心を持たれるタイミングが限定的で、話題にすること自体に心理的ハードルがある分野では、売り込みのタイミングを逃しやすいという問題があります。
このような状況で有効なのが、「まずは身近なところから接点を持つ」というアプローチです。たとえば、カフェという形態であれば、誰もが日常的に利用できる場であり、特別な理由がなくてもふらりと立ち寄ることができます。そこで提供されるのは、美味しいコーヒーや軽食といった「葬儀とは関係のないもの」ですが、それこそが重要なポイントです。「ちょっとした日常の寄り道」で顧客との接点をつくり、その場で自然に企業の存在を知ってもらうことが、後の本命商品へとつなげるための第一歩となります。
こうしたアプローチは、他業界ではすでに数多くの成功事例があります。保険会社がカフェ風の店舗を展開したり、不動産業者が雑貨販売や地域イベントを併設するなど、本命商品の前に「顔を覚えてもらう」「関心を持ってもらう」ことを目的とした施策は広く活用されています。
葬儀業界でも、カフェを通じた接点づくりは、時代の流れに合った自然なマーケティング手法と言えるでしょう。まずは「ただのカフェ」として関係を築き、そこから少しずつ本題に近づいていく。この段階的な関係構築こそ、葬儀のようなデリケートなサービスには最適です。
シーズ志向ではダメ。ニーズ志向で
カフェを起点に顧客との接点を持ち、本命である葬儀サービスにつなげる――この戦略を成功させるためには、決して忘れてはならない前提があります。それが、「シーズ(企業視点)ではなく、ニーズ(顧客視点)で考える」という姿勢です。
多くの事業者が陥りがちなのは、「このサービスを売りたい」「この商品を知ってほしい」と自社の事情ばかりを優先してしまうことです。もちろん企業として売上を追求することは当然ですが、顧客にとって関心のないタイミングや方法で一方的に情報を押しつけると、かえって逆効果になります。特に、葬儀というセンシティブなテーマでは、相手の気持ちや準備の程度を無視したアプローチは敬遠されてしまいます。
葬儀屋がカフェを運営するというのは、一見「シーズ(=奇抜な発想)」のように見えますが、実際には「ニーズ志向」に基づいた巧みな戦略です。顧客は「おいしいコーヒーが飲みたい」「静かな空間で過ごしたい」という日常のニーズでカフェを訪れます。そのニーズをしっかりと満たしたうえで、さりげなく終活に関する情報が目に入るような仕組みを整えることで、「これなら話を聞いてみてもいいかな」と思ってもらえるのです。
つまり、「カフェ」という場は、顧客のニーズを満たすための“受け皿”であり、そこを起点にして初めて葬儀サービスへの関心が芽生えます。このプロセスを無視して、いきなり本命の売り込みに走ってしまえば、むしろ信頼を失いかねません。カフェ戦略が有効なのは、「まず相手の立場を理解する」という基本に忠実であるからこそなのです。
まとめ
葬儀というサービスは、必要な時にしか注目されないがゆえに、関係構築のチャンスが非常に限られています。しかも、そのニーズが発生する時点では、顧客は精神的にも時間的にも追い詰められていることが多く、冷静な判断ができないまま、慌ただしく業者を選ぶというケースが大半です。
このような背景から、近年では「日常的な空間」であるカフェを運営することで、事前に顧客との接点をつくろうとする葬儀社が増えています。この取り組みは単なる奇をてらったアイディアではなく、「敷居を下げる」「信頼を得る」「ニーズを把握する」といった重要な目的に基づいた、実に戦略的なマーケティング手法といえるでしょう。
ただし、成功させるためには、「売りたいからやる」という一方通行の発想を排し、顧客が何を求めているかにしっかり耳を傾ける姿勢が必要です。日常の小さなニーズに応えることで、「もしもの時にはここにお願いしよう」と思ってもらえる関係性を築いていく――それこそが、現代のサービス業に求められる新しいかたちです。
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