このページの目次
パワハラ研修を実施する企業が増加傾向。しかしその効果は?
近年、職場におけるハラスメント問題が広く注目される中で、特に「パワハラ(パワーハラスメント)」への関心が高まっています。部下が上司からの言動に対して「これはパワハラだ」と声を上げるケースは年々増加しており、それに伴って、パワハラ研修を導入・強化する企業も増えています。中には毎年定期的にパワハラ研修を行うことを社内ルールとし、全社員参加を義務付ける企業も少なくありません。
一方で、これまでにセクハラ対策を先行して導入していた企業では、「ハラスメント全般の研修」として、セクハラとパワハラをひとまとめに扱う形式を取ることも見受けられます。時間とコストの節約を図る合理的な措置と思われるかもしれませんが、実際には効果が限定的となる可能性があります。というのも、セクハラとパワハラでは性質が大きく異なり、研修の狙いや受講者に求められる行動変容も大きく異なるためです。
特に、パワハラは業務上の指導と密接に関係しており、単なる「禁止事項の列挙」では理解や改善につながりません。そのため、パワハラ研修を有効なものにするには、セクハラ研修とは異なる観点と構成が必要です。そこで本稿ではその違いを明確にしながら、パワハラ研修のあるべき姿について詳しく検討していきます。
セクハラは完全撲滅一択
セクハラ(セクシャルハラスメント)に関しては、企業としてのスタンスは非常に明快です。セクハラは一切容認されない行為であり、「ゼロ容認」が前提となります。理由は明白で、セクハラは個人の尊厳を傷つける行為であると同時に、刑事事件や民事訴訟に発展する重大なリスクを内包しているからです。実際、企業が関与したセクハラ事案が報道されると、信頼の失墜は避けられず、ブランド価値や株価にも影響を及ぼしかねません。
セクハラ研修では、「加害者に悪意があったかどうか」よりも、「相手がどう受け止めたか」が重視されることが強調されます。つまり、「冗談のつもりだった」「親しみを込めたつもりだった」といった言い訳は一切通用しないのです。だからこそ、研修では「セクハラと受け取られかねない言動すら慎もう」という、予防の視点に立った教育が重視されます。
また、セクハラには客観的な基準がある程度成立しており、具体例を示しやすいことから、研修プログラムとしても構築しやすい特徴があります。「飲み会での身体接触」「外見への不用意なコメント」など、明確なNG行為を列挙し、それを避けるよう指導すれば一定の効果が見込めるのです。つまり、セクハラについては完全撲滅という方針で問題なく研修を進めることが可能です。
パワハラは撲滅すればよいわけではない
パワハラ(パワーハラスメント)は、その名の通り「職権を背景にした不適切な言動」とされますが、その線引きはセクハラに比べて非常に曖昧です。なぜなら、業務上の指導や管理という行為が本質的に「相手にとって厳しいと感じられる可能性のあるもの」だからです。つまり、すべての叱責や注意がパワハラに該当するわけではなく、むしろ業務達成のためにはある程度の厳しさが求められることもあります。
そのため、パワハラを「完全に撲滅すべき行為」として一律に扱うことは現実的ではありません。極端な話になりますが、「部下に嫌な思いをさせないように」と過剰に配慮し、注意を一切行わない状態が続けば、業務の質は確実に低下します。納期の遅延、成果物の品質低下、チームの士気低下など、上司の役割放棄により組織全体が機能不全に陥るおそれすらあります。
もちろん、暴言や人格否定、継続的な無視などは明確にパワハラであり、許されるべきではありません。しかし、問題はグレーゾーンにあるのです。たとえば「早く終わらせろ」といった業務指示が、ある部下にはモチベーションになる一方で、別の部下には心理的負担と感じられることもあります。このように、パワハラの定義は一律ではないことに配慮が必要です。
パワハラは様々な要素のバランスをとって考える必要がある
パワハラ研修を効果的なものにするには、「禁止事項を覚える」形式では不十分です。むしろ、上司が適切なマネジメントを行うために、どのような言動が望ましいのか、具体的な状況ごとに考える「判断力の育成」が中心であるべきです。これはセクハラ研修とは大きく異なる点です。
たとえば、プロジェクトの納期が迫る中で、部下に対して厳しいトーンで指示を出す必要がある場合、表面的にはパワハラに見えるかもしれません。しかし、それが業務遂行のためにやむを得ない対応であり、人格否定を含まないものであれば、必ずしも不適切とは言えません。一方で、同じ言葉でも頻度や背景によってはパワハラと受け取られる可能性もあるため、研修ではその見極めを養う必要があります。
そのためには、ケーススタディの活用が有効です。「この言動はパワハラか否か」「代わりにどんな表現が適切か」といった問いを実際に考えることにより、抽象的な判断ではなく、実務に根ざした行動のあり方を学べます。
さらに、研修の中では「部下への配慮」と「業務上の責任」の両立が求められるという現実を正しく理解させる必要があります。このバランス感覚こそが、パワハラを防ぎながらも適切なマネジメントを実現する鍵となります。
様々な階層を混在させたグループワークが有効
パワハラ研修の効果を高めるためには、単なる座学や映像視聴といった受動的な学習では不十分です。特に効果が高いとされるのが、「様々な階層の従業員を混在させたグループワーク形式」の研修です。というのも、パワハラの問題は、立場や視点の違いによって受け取り方が大きく異なるからです。
たとえば、管理職の多くは「部下の成長を思って厳しく接している」と考えているかもしれません。しかし、部下の立場からすれば、その厳しさが威圧や恐怖と感じられていることもあります。自分の言動が他者にどう映っているのか、本人には見えにくいものです。だからこそ、立場の異なる者同士が意見を交換し合う場を設けることが、相互理解を深める鍵となります。
このようなグループワークでは、ある事例について「これはパワハラかどうか」をテーマにディスカッションを行うのが一般的です。すると、同じ言動に対して「当然の指導」と捉える人と、「これは萎縮してしまう」と感じる人が出てきます。この意見の違いこそが、研修における最も貴重な学びの材料なのです。
さらに、グループに階層的な多様性を持たせることで、業務上の責任や期待、部下の感じる不安や困惑といった現場のリアルが浮き彫りになります。結果として、「パワハラとは何か」という定義を表面的に学ぶのではなく、自社の組織文化や職場環境に即した理解が進むのわけです。
このような形式は、受講者の主体的な関与を促し、記憶への定着も促進します。職場で実際にパワハラの兆候を見かけた際、自分の行動や発言をふと振り返るきっかけとなることも少なくありません。パワハラ防止は一人ひとりの意識の積み重ねによって初めて実現するものであり、他者との対話を通じてその意識を高めていくことが研修の本質的な目的となります。
まとめ
セクハラとパワハラは、どちらも職場における重大な問題であり、企業として対応が求められる点では共通しています。しかし、それぞれの性質や対処のアプローチには明確な違いがあります。セクハラは「一切許容しない」という方針が基本であり、明確な禁止行為を定め、予防に徹する研修が効果的です。
一方で、パワハラには業務上必要な指導との線引きが常に問われます。すべての厳しい言動を禁止してしまえば、上司のマネジメント力が著しく損なわれ、組織としての生産性が低下してしまうおそれがあります。そのため、パワハラ研修では「禁止一択」ではなく、ケースバイケースでの判断力やバランス感覚を養うことが重視されるのです。
また、職場でのパワハラに関する認識は、立場によって大きく異なります。このため、研修では異なる階層の社員が意見を交わす場を設け、立場を超えた相互理解を深めることが不可欠です。グループワークやディスカッションはそのための有効な手段となります。
結局のところ、パワハラ防止とは、相手の気持ちを尊重しつつも、業務の質を落とさずに成果を出すという、難しいバランスを実現する努力にほかなりません。画一的な対応ではなく、企業ごとの風土や文化に応じた柔軟なアプローチこそが、持続可能で実効性のあるパワハラ対策につながっていきます。
当センターではこうしたハラスメント対策について組織風土やパワーバランスなどをふまえて最適な効果を発揮できるよう各社毎にカスタマイズした対応をご提供しております。下記よりお気軽にご相談ください。

当センターは、弁護士・公認会計士・中小企業診断士・CFP®・ITストラテジストなどの資格を持つセンター長・杉本智則が所属する法律事務所を中心に運営しています。他の事務所との連携ではなく、ひとつの窓口で対応できる体制を整えており、複雑な問題でも丁寧に整理しながら対応いたします。
窓口を一本化しているため、複数の専門家に繰り返し説明する必要がなく、手間や時間を省きながら、無駄のないスムーズなサポートをご提供できるのが特長です。
大阪府を拠点に、東京、神奈川、愛知、福岡など幅広い地域のご相談に対応しており、オンラインでのご相談(全世界対応)も可能です。地域に根ざした対応と、柔軟なサポート体制で、皆さまのお悩みに親身にお応えいたします。
初回相談は無料、事前予約で夜間休日の相談にも対応可能です。どうぞお気軽にご相談ください。