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労働審判の定着
労働審判制度は、2006年に施行されて以来、今年で20年近くが経過しました。この制度は、労働者と使用者の間で発生した労働関係の紛争を、迅速かつ適正に解決するために設けられたものです。従来、労働問題を解決するには労働者が訴訟を提起する必要がありましたが、訴訟は時間も費用もかかり、精神的な負担も大きいため、泣き寝入りするケースも少なくありませんでした。
労働審判制度は、裁判所において労働審判官1名と労働関係の専門的知識を有する労働審判員2名で構成される合議体が紛争を扱い、原則として3回以内の期日で審理を終えるという迅速性が大きな特徴です。これにより、労働者も使用者も短期間で結論を得られる可能性が高まりました。また、労働審判では、審判手続の中で和解が成立することも多く、双方が一定の譲歩をして合意に至ることも少なくありません。
近年、この制度はすっかり定着し、労働問題の解決手段として一般的な選択肢の一つとなっています。特に、法テラスや各地の弁護士会による無料法律相談を通じて制度が広く知られるようになったことが大きな要因です。制度開始当初は「新しい手続」であることへの不安や誤解から利用件数が伸び悩む時期もありましたが、今では「労働紛争が起きたらまず労働審判を検討する」という認識が広まりつつあります。こうした背景を踏まえると、企業側もこの制度を「特別なケース」ではなく「日常的に起こり得るリスク」として認識し、備えておくことが不可欠です。
労働審判の主な争点
労働審判で扱われる争点は多岐にわたりますが、中心となるのは解雇の有効性と未払金の請求です。解雇に関しては、就業規則や労働契約書に基づく合理的な理由があったのか、手続が適正に行われたのかが厳しく問われます。これに加え、未払の残業代や給与、退職金、賞与などの金銭請求も頻繁に争われます。
かつては、不当解雇や未払金に悩んでいても、「裁判は大変そう」「弁護士費用が高い」といった理由で泣き寝入りする労働者が多く見られました。しかし、労働審判の普及により状況は一変しました。無料法律相談をきっかけに、自分のケースが労働審判に適していると知り、申し立てを決意するケースが増えています。法テラスの利用や着手金不要の弁護士事務所も増え、経済的なハードルが下がったことも背景にあります。
このように、従来なら表面化しなかった労働トラブルが、労働審判によって短期間で争われる事例として顕在化する傾向が強まっています。企業にとっては、今までなら水面下で収まっていた不満が、突然、裁判所からの呼び出しという形で現れるリスクが増しているということになります。そのため、企業は労働審判の典型的な争点を理解し、自社の雇用契約や賃金体系、労務管理の運用における潜在的なリスクを事前に把握することが重要です。
労働審判の特徴
労働審判の最大の特徴は、原則として3回の期日で終結するというスピード感です。通常、1回目の期日で双方の主張がほぼ出揃い、2回目で争点の整理と和解の可能性が探られ、3回目で和解の最終調整や審判の言い渡しが行われます。このため、初回期日から事実関係や証拠を十分に提示できるかどうかが、手続の行方を大きく左右します。
一般的な訴訟では、訴状提出後も何度も期日を重ねながら主張や証拠を追加できますが、労働審判ではそうした余裕はありません。初回から「全力投球」できる準備体制が求められます。例えば、解雇をめぐる事案であれば、解雇理由を裏付ける書類、就業規則、労働者の勤務状況記録、面談記録などを一括して揃えなければなりません。未払金の請求に関しても、賃金台帳や出勤簿、計算根拠を整理して提示する必要があります。
また、労働審判は裁判官だけでなく、労働問題に精通した労働審判員が加わるため、事実や証拠の整合性だけでなく、社会通念上の妥当性も強く意識されます。こうした背景から、制度の性質を理解したうえで、初回期日に向けた計画的な証拠収集と主張整理の仕組みをあらかじめ社内に構築しておくことが、企業防衛の鍵となります。
潜在的な火種を顧問弁護士に連絡しておく必要性
現代では、従業員が表面上は処分や対応に納得しているように見えても、後日、無料法律相談を経て労働審判の申し立てに踏み切ることは珍しくありません。制度が浸透したことで、労働者側が心理的にも経済的にも行動を起こしやすくなったからです。
そのため、企業は「申し立てられてから対応を考える」という姿勢では間に合わない場合があります。特に労働審判は短期間で進むため、初動が遅れると十分な反論や証拠提出ができないまま和解や審判に至ってしまう危険性があります。
そこで有効なのが、社内で発生した潜在的な紛争の芽を早期に顧問弁護士へ共有する仕組みです。この段階では必ずしも正式な相談や依頼に至らなくても構いません。例えば「この懲戒処分について不満を持っているようだ」「退職時の清算額で食い違いがありそうだ」など、火種になり得る情報を顧問弁護士に事前に知らせておくだけでも、リスクの大きさや対応の方向性について助言を受けられます。
こうした早期連絡の習慣を作ることで、いざ労働審判に発展した場合でも、事前に整理された記録や証拠を即座に提出できる体制が整います。企業防衛の観点からも、潜在的な問題を見逃さず、法的な視点を取り入れた予防的アプローチを常態化させることが重要です。
客観的・合理的な判断を
どの組織にも独自の文化や慣習があり、時には感情や過去の経験則に基づいて意思決定が行われることがあります。しかし、労働審判の場では、こうした主観的な判断や社内の常識は通用しません。必要なのは、客観的かつ合理的な判断と、それを裏付ける証拠です。
労働審判は短期決戦であるため、「その場しのぎ」の対応は通用しません。社内の揉め事に関しては、初動の段階から事実関係を正確に把握し、証拠を整え、第三者にも理解できる形で記録することが求められます。例えば、従業員の勤務態度に問題があると判断した場合も、その評価が感情的なものではなく、客観的な勤務実績や行動記録に基づくことを明確にしておく必要があります。
さらに、その判断に至るまでの経過や理由を記録しておくことも大切です。後になって「なぜその決定をしたのか」と問われた際に、文書やデータで説明できるかどうかが、労働審判での防御力を大きく左右します。こうした体制は、突発的な紛争発生時だけでなく、日常的な労務管理の質を高め、社内の透明性や公正性を強化する効果もあります。
まとめ
労働審判制度は、その迅速性と利用のしやすさから、今や労働紛争の解決手段として定着しています。解雇や未払金といった典型的争点をめぐり、これまで表面化しなかった問題が突然、裁判所からの呼び出しという形で企業に突き付けられる時代です。
制度の特徴である短期決戦に備えるためには、初回期日に全ての証拠を提示できる準備体制を日頃から整えておく必要があります。そのためには、潜在的な火種を早期に顧問弁護士へ共有し、リスク分析と対応方針の検討を進めることが欠かせません。さらに、社内の判断は感情や慣習に左右されず、客観的かつ合理的に行い、その経過を記録する仕組みを構築することが求められます。
労働審判は突然やってきます。だからこそ、計画的な準備と日常的な予防策が、企業を守る最大の武器となります。
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