カスハラ対応の指示がパワハラになっていませんか

ミスをした本人に顧客対応させるのは場合によってはパワハラ

近年、顧客から従業員に対する不当な要求や過剰な叱責が社会問題化しており、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉も一般的に使われるようになりました。カスハラは大きなトラブルや契約違反だけでなく、ちょっとしたミスが発端となることも少なくありません。たとえば商品に軽微な不具合があった、納期の説明が一部不足していたといった些細な出来事が、顧客の強い不満や攻撃的な態度を引き出してしまうこともあります。
こうした場面で多くの職場では、「ミスをした本人が責任をもって最後まで顧客対応をするべきだ」という考えが根強くあります。実際、他の従業員も自らの業務で手一杯であり、対応に割く余裕がないことも多いため、このような方針は一見合理的に見えます。しかし、顧客にとっては「自分にミスをした張本人」が相手にいることで、好き勝手に言いやすい状況が生まれてしまうのも事実です。つまり、顧客側の苛立ちや攻撃性がさらに高まりやすく、本人にとっては大きな精神的負担となりかねません。
このような状態で本人に延々と対応をさせ続けることは、実質的に「見せしめ」となり、本人を追い詰める結果を招く危険があります。指導者や上司が「お前が悪いのだから自分でやりきれ」という指示を繰り返すと、それは本人の尊厳を損ない、組織的なパワハラに該当する可能性すらあります。もちろん、最初に顧客へ謝罪や説明をする場面では本人が関与する必要があるかもしれません。しかし、それを超えて延々と責任を押し付けることは妥当ではありません。カスハラの場面では、いかに本人の責任と組織としての対応を切り分けるかが重要であり、この判断を誤ると、内部で新たなハラスメントが生じるリスクが高まってしまいます。
そこで本稿では本人以外が対応して合理的にカスハラをおさめる方法を紹介します。

別の人が対応する合理性

カスハラ対応の現場では、状況に応じてミスをした本人から別の従業員へバトンタッチすることが有効です。特に同じ部署の同僚や上司が代わりに対応すると、顧客にとっては「別の立場の人」が出てきたという安心感や冷静さが生まれやすくなります。顧客も「ミスをした張本人」に対しては強い態度に出やすい一方で、別の人に対しては過度な非難をしにくい心理が働くためです。これは人間関係の基本的な心理作用であり、対応者を替えるだけでも大きな効果があります。
ただし、別の従業員が対応に入るということは、その人の本来の業務を一時的に止めることを意味します。結果的に労働生産性が低下するリスクは避けられません。組織としては、この「生産性の犠牲」と「顧客トラブルを適切に収束させる価値」とを天秤にかける必要があります。トラブル対応は目に見えにくい成果であるため、従業員自身も「本来の仕事をしていない」と感じてしまいがちですが、実際には会社にとって大切なリスクマネジメントの一部です。したがって、こうした代理対応の役割を果たした従業員に対しては、正当に評価へ反映させることが欠かせません
さらに、この対応体制をあらかじめ部署内で共有し、誰がどのような場合に対応を引き継ぐのかを決めておくことも重要です。行き当たりばったりで人を割り当てると、不公平感が生まれ、組織全体の士気が低下する恐れがあります。合理的に代理対応を行うには、負担の分散と評価制度の整備を両立させることが求められます。

電話対応で対応の効率性を確保

カスハラを含む顧客対応を効率化する方法の一つとして、コールセンターを活用した電話対応があります。顧客の窓口を一元化することで、現場担当者が業務に集中でき、労働生産性を損なわずに済むという利点があります。現場で発生した小さなミスや誤解に基づくクレームも、まずは電話窓口で吸収する仕組みにすれば、業務全体の流れが止まることを防げます。
電話という間接的なコミュニケーション手段にも効果があります。顧客が直接対面している場合には感情が高ぶりやすく、強い言葉を投げつけてしまうこともありますが、電話越しであれば過剰な要求をするハードルが下がるといわれています。距離感を適度に保つことが、顧客と従業員双方にとって精神的な安全を確保する要素となります。
もっとも、電話対応は単純作業に見えて実際には大きな精神的負担を伴います。理不尽な要求を受けながら冷静に対応し続けるためには、相応のスキルや忍耐力が求められます。そのため、電話窓口のスタッフを「誰でもできる簡単な仕事」とみなして低賃金で雇用することは適切ではありません。むしろ、質の高い人材を確保するためには相応の処遇を与え、教育を行い、メンタルケアにも配慮することが不可欠です。電話対応の品質は企業全体の信頼を左右するため、その重要性を軽視せず、適切な投資を行う姿勢が求められます。

顧問弁護士に外注

カスハラの中には、単なる苦情や不満の表明にとどまらず、会社に深刻な損害を与える可能性がある案件も存在します。特に、暴言や脅迫を伴うケース、金銭的請求が法的な争いに発展しそうな場合、あるいは刑事事件に関わる恐れがある場合には、社内対応だけでは限界があります。このようなケースでは、顧問弁護士に対応を依頼することが極めて有効です。
弁護士は法律の専門家として、冷静に事実を整理し、証拠を確保しながら適切に対応を進めることができます。従業員が感情的に巻き込まれるリスクを排除できる点も大きなメリットです。また、顧客に対しても「弁護士が介入している」という事実が心理的抑止力となり、過剰な要求を控えさせる効果が期待できます。
もっとも、顧問弁護士は万能ではありません。すべての案件を外部の専門家に任せてしまえば、コストは膨大になります。したがって、どのような案件を弁護士に委ねるのかについて、あらかじめ社内で基準を策定しておく必要があります。基準が不明確なままでは、対応の一貫性を欠き、社内外に混乱を招く可能性があります。
顧問料は決して安価ではありませんが、企業に重大なリスクが生じる場面においては、その費用以上の価値をもたらすものです。経営者や管理職は「顧問料を節約する」という発想ではなく、「適切に弁護士を活用して企業を守る」という視点を持ち、必要な場合には積極的に外注する姿勢が求められます。

ノウハウを蓄積して社内にフィードバックを

カスハラ対応は、単にその場をしのぐだけでは不十分です。顧客からの不当な要求を退けたり、トラブルを収束させたりした後こそ、企業は次の一手を考える必要があります。カスハラが生じた原因を分析し、再発を防ぐ仕組みを整えることが欠かせません。
たとえば、ハラスメントのきっかけとなった「説明不足」や「小さな手違い」がなぜ起きたのかを検証し、業務品質を改善していくことが重要です。また、従業員がどのように対応すれば顧客の怒りをエスカレートさせずに済んだのか、逆にどのような言動が事態を悪化させたのかを整理し、マニュアル化して社内で共有する取り組みも有効です。成功事例や失敗事例を蓄積することで、従業員一人ひとりが経験を共有し、次の対応に活かすことができます。
さらに、このような情報をただ集めるだけでなく、研修や勉強会の形で従業員にフィードバックすることが大切です。現場でのリアルな事例をもとにした学びは、机上の理論よりも実践的であり、従業員の安心感にもつながります。組織全体として「カスハラを受けても孤立しない」「会社が一丸となって対応する」という文化を醸成することができれば、従業員の定着率や職場の士気も向上するでしょう。
つまり、カスハラ対応は一過性の防御策ではなく、組織の学習サイクルに組み込むべき課題なのです。そうすることで、ハラスメントが起きにくい環境づくりと従業員のメンタルヘルス維持の両立が可能となります。

まとめ

カスタマーハラスメントは、企業にとって避けがたい課題であり、その対応を誤れば従業員が二重に苦しむ事態を招きかねません。特に「ミスをした本人に最後まで対応させる」という方針は、一見合理的に思えても、本人を顧客からの攻撃にさらし続けることになり、パワハラの温床となる恐れがあります。状況に応じて別の人が対応したり、電話窓口を活用したり、さらには弁護士へ外注するなど、複数の手段を柔軟に組み合わせることが大切です。
また、対応の負担を担った従業員への正当な評価や、電話応対スタッフの処遇改善といった社内制度面での支援も欠かせません。そして何より、対応を通じて得た知見を組織に蓄積し、業務品質の改善や再発防止に役立てることが求められます。企業が従業員を守りつつ顧客との関係を適切に維持するためには、単なる場当たり的な対応ではなく、体系的かつ長期的な視点が必要です。
当センターでは、顧問弁護士と現場の最適な役割分担を通じたカスタマーハラスメントによる被害を最小化する組織体制の構築を提案させていただきます。下記よりお気軽にご相談ください。

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