役に立たない社員についてやってはいけない処遇

組織への貢献度が著しく低い社員の処遇

どのような職場であっても、組織への貢献度が著しく低い社員が存在することは珍しくありません。例えば、明らかに能力不足で与えられた仕事を満足にこなせない人や、基本的なコミュニケーションすら十分にできないためにチームワークを阻害する人などがこれにあたります。組織はチームとして成果を出すことを求められる以上、こうした社員が一人でもいると周囲の業務負担は増加し、全体の生産性が大きく下がってしまいます。さらに、同僚たちがフォローに追われる状況が続けば、努力している人のモチベーション低下を招き、結果として組織全体の士気に悪影響を与えてしまいます。
日本の労働環境においては、このような問題社員の処遇が容易ではありません。その最大の理由は、労働法制にあります。労働契約法や判例の積み重ねにより、解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が認められなければ無効とされます。つまり、単に「役に立たないから」というだけでは正当な解雇理由にならず、会社側は慎重に対応せざるを得ません。そのため、組織は問題社員をどう扱うかについて頭を悩ませることになります。
この状況に対し、経営者や管理職が取るべき対応は感情的な排除ではなく、段階的で合理的なプロセスに基づいた処遇です。安易に「辞めさせたい」と考えて強硬手段に出れば、法的トラブルを招き、企業の信用すら失いかねません。むしろ、組織に与える悪影響を最小化しながら、本人の適性や意欲を見極める道筋を用意することが求められます。そこで本稿では、このような問題社員に対して企業が取り得る適切な対応を、いくつかのステップに分けて解説していきます。

まずは部署異動で様子を見る

組織への貢献度が低いと感じられる社員に対して、最初に取るべき対応のひとつが「部署異動」です。人は環境によって力を発揮できる場合とそうでない場合があり、現在の部署や職務内容が当人の特性に合っていない可能性があります。したがって、ただ「役に立たない」と決めつけるのではなく、他の部署や異なる業務を経験させることで適性を見直す余地があります。
例えば、コミュニケーションが極端に苦手で周囲と連携する業務ではつまずく社員であっても、一人で集中して完結させる業務であれば成果を出せることがあります。逆に、細かい作業が不得手でも、対人対応に強みを持っている人材もいます。異動によって環境を変えることは、本人にとって新しい可能性を開くとともに、組織としても人材を有効に活用できる機会を提供するものになります。
さらに、部署異動にはもう一つの意味があります。それは、将来的に解雇を検討する場合でも「改善の機会を与えた」という合理的なプロセスを会社として踏んだことの証拠となる点です。法的観点からも、いきなり解雇を行うよりも、まずは異動による改善の可能性を探ることが適切な手順と考えられています。
異動を行う際には、単なる人員整理のためではなく「本人の不得手を軽減し、拠り所となる業務や人間関係を得られる環境を整える」という視点が重要です。適切な配置換えが行われれば、本人が意欲を取り戻し、これまで発揮できなかった能力を引き出せる可能性があります。したがって、部署異動は単なる対症療法ではなく、本人と組織双方にとって有益な試みとなります。

キャリア面談の実施

部署異動を経てもなお状況が改善しない場合、次に重要となるのがキャリア面談です。これは単なる業務指導ではなく、本人が自分の将来像をどう描いているかを丁寧に聞き出す場であり、本人の意識改革を促す機会でもあります。
面談では、まず本人に「今後どのように働きたいのか」「どのようなキャリアを望んでいるのか」を率直に語らせることが大切です。そのうえで、上司が冷静に不足しているスキルや態度を指摘し、改善のために必要な具体的ステップを提示します。本人がこれを理解し、補充していく意欲を示すのであれば、まだ救い上げる余地はあるといえます。逆に、指摘を受け入れず、自ら変わる意思を持たない場合は、組織に居続けても成長や貢献は期待できません。
キャリア面談は、単なる指導の場ではなく「本人の改善意欲の有無を見極める場」でもあります。もし改善意欲が確認できるなら、研修や外部講座の受講、業務上の小さな成功体験の積み重ねなどを通じて本人をサポートする道を選べます。一方で、やる気が全く感じられない場合は「これ以上昇進や昇給の余地がない」ことを伝え、将来的な不利益を理解させることが必要です。それによって本人が自主的に退職を検討する道も自然と開かれていきます。
要するに、キャリア面談の最大の意義は「本人が改善に向けて努力するか否か」という一点にあります。ここで努力する姿勢を見せる社員はまだ戦力化の可能性がありますが、やる気がない社員は組織にとって負担でしかありません。その見極めを正しく行うことが、適切な処遇を決定するうえで欠かせなません。

退職勧奨の手法

キャリア面談などを経ても改善が見られない場合には、退職を促す選択肢が浮上します。ただし、ここで注意すべきは「自主退職を促すことは可能だが、強制はできない」という点です。強引に辞めさせることは違法行為にあたり、会社にとって大きなリスクとなります。そのため、退職勧奨はあくまで本人に納得させる工夫が求められます。
一つの方法は、他の社員が好んで行きたがらない部署に異動させることです。これはペナルティのように見えがちですが、合理的な人員配置として説明できれば違法性は生じにくいとされています。本人にとって負担の大きい部署であれば、自ら退職を考える可能性も高まります。
また、人事制度を工夫することも有効です。例えば業績連動型の賞与制度を導入すれば、成果を上げられない社員の賞与は自然に低く抑えられます。その結果、優秀な社員との待遇差が明確になり、能力の低い社員は報酬面で不満を抱き、自発的に退職を検討するかもしれません。さらに、基本給を低めに設定し、業績連動の割合を大きくする給与体系を構築すれば、成果を出す社員は高報酬を得られる一方、貢献度の低い社員は低い給与にとどまる仕組みができます。
このような制度的アプローチは、本人に「居続けることのメリットが薄い」と感じさせ、退職を促すきっかけになり得ます。ただし、いずれの方法も表面的には公平な制度設計として説明できることが重要です。組織は正当なルールのもとで処遇を行うことで、法的リスクを避けつつ問題社員の自発的な退職を実現できます。

パワハラはダメ

問題社員の処遇に行き詰まったとき、ありがちな誤った対応が「パワハラによる排除」です。例えば、露骨に無視をする、全く仕事を与えない、または誰でもできる単純作業ばかりを押し付けるといった行為は、いずれもハラスメントとみなされる可能性が高いものです。こうした対応をとれば、本人から労働基準監督署や裁判所に訴えられるリスクが生じ、会社は不当行為を問われる危険性があります。
嫌がらせを通じて退職に追い込むことは、一見すると手っ取り早い解決策に思えるかもしれません。しかし、これは明確に「やってはいけない処遇」です。訴訟リスクだけでなく、職場全体の空気が悪化し、残っている社員の信頼をも失いかねません。「会社は問題がある人に対して冷酷に追い出しを行う」という印象が広まれば、優秀な社員ですら不安を感じて離職する恐れがあります。
正しい対応は、制度やルールに基づき、本人に納得感を持たせながら自主退職を促すことにあります。退職を決断させるためには、前章で述べたような制度設計や配置転換といった「正攻法」が求められます。結局のところ、企業が取るべき道は法的にも倫理的にも適正な方法であり、パワハラのような不当な処遇は避けるべきです

まとめ

組織において役に立たないと感じられる社員は、必ずしも珍しい存在ではありません。しかし、その処遇を誤ると、職場全体に悪影響を与えるだけでなく、法的トラブルや企業イメージの低下を招きます。だからこそ、冷静かつ合理的な対応が不可欠です。
まずは部署異動を通じて本人の適性を見直し、改善の可能性を探ることが第一歩です。そのうえでキャリア面談を実施し、本人の意欲の有無を丁寧に確認します。やる気があるなら成長を支援し、やる気がないなら昇給や昇進の機会が閉ざされる現実を理解させ、自主退職への選択肢を提示します。
さらに、退職勧奨を行う場合には、不人気部署への異動や成果に応じた人事制度の活用など、制度的に説明可能な手段を用いることが重要です。そして何より、パワハラによる強制的な排除は絶対に避けなければなりません。
最終的に大切なのは「組織の健全性を保ちながら、本人にも一定の納得感を与える処遇」を実現することです。役に立たない社員を排除することが目的ではなく、組織全体が健全に機能するための仕組みづくりが真の解決策となります
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