ハラスメントカスタマーへの提訴は既に後手

自治体が迷惑市民を提訴

自治体に対して何百件もの電話を執拗にかけ続ける迷惑市民が存在し、それに対して自治体がついに提訴に踏み切ったという報道が見られます。役所であれ企業であれ、公共窓口や顧客対応の最前線に立つ人々に対して、感情的なクレームや理不尽な要求を繰り返す「カスタマーハラスメント」は、すでに深刻な社会問題となっています。窓口担当者やコールセンター職員は、相手の要望に可能な限り応えようとしますが、それにつけ込むように行為をエスカレートさせる迷惑客は一定数存在し、通常の対応では被害を抑えきれません。
自治体が提訴に踏み切った背景には、通常の注意喚起や業務上の説得では改善の見込みがなく、かつ被害が拡大している現実があります。迷惑行為を繰り返す人に対しては、断固とした法的対応が有効だと言われますし、訴訟を通じて行為の違法性を明確にすること自体には一定の意義があります。しかしながら、実際には提訴が行われた段階で、すでに被害は相当進行していることが多く、被害の大部分は元に戻りません。
また、提訴したからといって迷惑行為が必ず止まるとは限りません。迷惑行為に及ぶ人の中には、そもそも訴訟に耐えうるだけの資力がなく、仮に損害賠償請求が認められても回収不能に終わるケースが多くあります。つまり、提訴によって形式上は勝訴できても、実際の被害回復や行為の抑止には直結しないという現実があるのです。
このように、提訴という対応は「最後の手段」であると同時に「既に後手に回った状況」で実施されることがほとんどです。被害が深刻化して初めて動き出すのでは、現場が受けた時間的・精神的負担を埋め合わせることはできません。そこで本稿では、こうした迷惑客を相手にする際にどのような視点で被害を最小化するべきか、その基本的な考え方を整理していきます。

なぜここまで大事に?

数百件の電話が寄せられるという事態は、通常の市民対応の範囲を大きく逸脱しています。組織としての通常業務を著しく妨げるだけでなく、対応にあたる職員の精神的疲弊は相当なものになります。クレーム対応は往々にして相手の感情的な言動に触れる機会が多く、敬語や丁寧な対応を守りながら応対を続けるだけでも大きなストレスを伴います。そこに執拗な連絡が繰り返されれば、対応者が心身を病んでしまうことも珍しくありません。
さらに、迷惑行為が長期間続くことで、被害は時間の消耗だけにとどまりません。対応に追われて本来の業務が遅延し、内部の業務効率にも影響が出ることで、組織全体にとって大きな損失が生じます。精神的な負担は金銭的に評価が難しく、損害賠償請求で回収できる範囲を大幅に超えるダメージが蓄積されます。このような被害は、後から金銭で補うことはほぼ不可能であり、まさに「防げる段階で防ぐべき」性質のものだと言えます。
では、なぜ事態がここまで大きくなるまで放置されがちなのでしょうか。一つには、公的機関や企業が「顧客や市民の声には耳を傾けるべきだ」という使命感を強く持ちすぎてしまう傾向があることが挙げられます。相手が無理を言っていることが明らかであっても、窓口側が対応を「拒絶する」ことをためらい、結果として対応が長引きます。また、担当者が交代しても過去の経緯が共有されていないことで、相手の言い分を一から聞き直してしまい、被害が増幅されるケースもあります。
被害が深刻化する前に対処するためには、現場に「これは異常である」と認識できる視点と、「一定のラインで対応を止める」勇気と支援体制が欠かせません。事後対応としての提訴は重要な手段のひとつですが、提訴に至る前段階で被害の拡大を阻止する体制が整っていなければ、組織としての疲弊は避けられません。

被害を減らす工夫が必要

迷惑客の対応においては、被害を最小限に抑える工夫が欠かせません。まず大切なのは、しつこい陳情や理不尽な要求に対して、担当者が必要以上に時間を割かない体制を作ることです。熱心に耳を傾ければ相手が満足するという考えは、迷惑行為を行う人には通用しません。むしろ「まだ話を聞いてくれる」と勘違いさせ、行為がエスカレートする原因になりかねません。
次に有効なのは、応対する職員を固定せず、適宜交代する仕組みです。同じ人が延々と対応することで、相手は「この職員は自分の言動に耐えてくれる」と安心し、要求を強めてくる傾向があります。担当者を変えることで心理的な距離が生まれ、相手のペースを崩すことができます。また、担当者が一人で抱え込むことによる精神的負担も軽減され、組織として長期間の対応に耐えられる体制が整います。
そして、対応できないことは明確に「できません」と伝える姿勢が不可欠です。曖昧な表現や曖昧な約束は、迷惑客からすると「まだ交渉の余地がある」と受け取られ、さらなる要求につながります。対応可能な範囲を明確にし、ルールに基づいて対応することで、組織として一貫した姿勢を示すことができます。
さらに、マニュアルの整備も重要です。対応の線引きを明文化することで、現場の判断が一定になり、迷惑客への対応が場当たり的になることを防げます。どこまで対応し、どの段階で対応を終了するのかを明確に定めておくことで、担当者の負担が減るだけでなく、組織として迷惑行為を許容しない体制を示すことにつながります。
こうした工夫を積み重ねることで、迷惑客による被害を最小限に抑えられます。提訴という「最後の手段」に頼る前に、日常的な行動の中で被害を軽減することが、最も効果的で現実的な対応策となります。

弁護士には訴訟よりも迷惑客対応を任せよ

迷惑客への対策を考える際に重要なのは、賠償金を得ることよりも、被害を最小化することです。実際のところ、賠償金が回収できるケースは限られており、訴訟を行っても手間と時間がかかります。現場が被害を受け続ける時間が長くなるほど、組織の損失は拡大してしまいます。そこで有効なのが、一定のラインを超えた迷惑客に対して、早い段階で弁護士を介入させることです。
弁護士が対応することにはいくつかの利点があります。まず、迷惑行為を行う人の多くは、相手を「下に見ている」からこそ強気に出ています。窓口職員や担当者に対しては横柄な態度を取る一方、弁護士が介入すると態度が急に変わる人が少なくありません。法律的な知識を持つ専門家から直接注意を受けることで、自分の行為が違法であるという認識を持ちやすくなり、行為をやめるきっかけにつながります。
また、弁護士が組織の窓口として対応することで、担当者が直接話を聞く必要がなくなり、精神的な負担が大きく軽減されます。組織としての正式な対応窓口が設定されることで、迷惑客とのやり取りが形式的なものになり、相手が感情的に要求を押し付けてくる余地が減ります。対応記録も正確に残るため、万が一訴訟に発展しても、証拠として有効に活用できます。
さらに、弁護士に早期介入を依頼することで、事態が大きくなる前に抑止できる点も見逃せません。迷惑行為が常態化してしまうと、それを止めるためには大きな労力が必要になります。早い段階で弁護士から直接注意喚起を行うことで、被害が深刻化するのを防ぎ、組織が本来の業務に集中しやすくなります。
つまり、弁護士への依頼は「訴訟を起こすために依頼する」のではなく、「被害を最小化するために専門家に任せる」ことが本質的な役割です。迷惑客が一定のラインを超えたと判断した段階で、顧問弁護士に対応を引き継ぐことは、組織を守る上で極めて合理的な選択だと言えます。

認めることは認めよう

迷惑客の対応を難しくしている要因の一つは、組織側が必要以上に「防御的」になることです。組織がミスを隠蔽しようとしたり、柔軟性のない形式的な対応に終始したりすると、顧客側が「このままでは納得できない」と強硬な姿勢を取ることがあり、結果として紛争が長期化します。問題が大きくなる原因は、迷惑客の一方的な言動だけではなく、組織側の硬直した対応にある場合も少なくありません。
まず大切なのは、組織側に明確な落ち度がある場合、それを素直に認め、適切に謝罪し、改善策を明示することです。ミスを過度に隠そうとすると、相手の不信感を招き、追及が厳しくなります。誤った対応を認めることは勇気のいることですが、誠実な姿勢を示すことで、多くの問題は早期に収束します。
一方で、対応できない要求に対しては、明確に拒絶する必要があります。「できないものはできない」とはっきり伝えず曖昧な返答をしてしまうと、相手は「交渉すれば通るのではないか」と期待し、要求をエスカレートさせてしまいます。柔軟に対応すべき場面と、拒絶すべき場面を見極め、その線引きを組織全体で共有することが重要です。
また、顧客とのコミュニケーションにおいては、感情的な反応を避け、丁寧かつ冷静に対応する姿勢が求められます。とはいえ、柔軟な対応が可能であったにもかかわらず、あえて形式的なルールに固執してしまうと、不要な対立を生むことがあります。苛烈なカスタマーハラスメントの事例の多くには、どこかの段階で組織側が柔軟な対応を欠き、相手の感情を逆なでするような行動を取ってしまった面が見られます。
結局のところ、迷惑客の対応は「一律に硬い対応を取ればよい」「とにかく強気で押せばよい」という単純な話ではなく、認めるべき点は認め、拒絶すべき点は拒絶し、柔軟に対応できる点は柔軟に行うという、バランス感覚が不可欠だと言えます。

まとめ

迷惑客への提訴は、確かに強いメッセージを発する方法であり、違法行為に対しては法的責任を問うべき場面もあります。しかし提訴が行われる時点で、多くの場合すでに被害は深刻化しており、提訴自体が後手に回った対応であることは否めません。だからこそ、組織としては迷惑行為が深刻化する前の段階で、被害を最小限に抑えるための仕組みを整えることが不可欠です。
被害の拡大を防ぐためには、担当者を固定せず、負荷を分散させる仕組みや、マニュアルによる対応の線引きが有効です。対応可能な範囲を明確にし、必要以上に相手の要求に付き合わないことで、組織側の疲弊を防げます。また、一定のラインを超えた迷惑客には早期に弁護士を介入させ、現場の負担を取り除くことが現実的な対策となります。
さらに、組織側に落ち度がある場面では、隠さず誠実に向き合うことで、相手が不必要に攻撃的になることを防げます。一方で、対応できない要求に対しては、毅然と拒絶する姿勢が必要です。柔軟さと強さの両立こそが、迷惑客対応における本質的なバランスです。
提訴をゴールと捉えるのではなく、日常的な業務の中で迷惑行為を広げない体制を構築することこそ、組織を守る最も効果的な方法と言えます。
当センターでは官公庁のカスハラ対応も任された弁護士が、「被害の最小化」という観点で御社のカスハラ対応体制の整備にご協力いたします。下記よりお気軽にご相談ください。

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