労働審判
リモートワーク選好の理由が社員定着のカギ

リモートワークの可否が退職判断の決定打に
リモートワークという働き方は、コロナ禍を契機に一気に普及しました。当初は感染防止のための臨時措置として始まりましたが、その後、出社が再開しても「在宅勤務を続けたい」という社員が一定数存在し、今ではリモートワークの可否が転職や退職の判断基準にまでなっています。実際、ある調査によると「リモートワークが認められない場合は転職を検討する」と答えた社員が全体の4割を超えています。特に若手層や子育て世代では、勤務形態の柔軟性を重視する傾向が顕著です。
確かに、リモートワークには一長一短があります。企業側から見ると、在宅勤務を許可すれば業務管理が難しくなり、成果の把握やチームの一体感維持に課題が生じます。社員の自宅環境にばらつきがあるため、オンライン会議の通信トラブルや情報漏洩リスクも無視できません。オフィス賃料を削減できる一方で、IT機器やセキュリティ対策の費用が増加するという側面もあります。
それでも社員がリモートワークを望むのは、単なる利便性の問題ではなく、自分のライフスタイルに合わせて働けるという「裁量と尊重の象徴」として捉えているからです。仕事の成果さえ出していれば、働く場所や時間は自由でよいという考え方は、特にミレニアル世代以降では常識になりつつあります。
つまり、リモートワークは単なる制度ではなく、「社員を信頼しているかどうか」を測る試金石でもあります。これを認めるか否かが、社員にとって会社への信頼感や満足度を左右し、その結果として離職率にも大きな影響を与えています。
通勤しなくてよい
リモートワークを希望する理由として最も多く挙げられるのが「通勤しなくてよいこと」です。朝の満員電車に揺られ、長時間をかけてオフィスへ向かうことは、肉体的にも精神的にも大きな負担です。特に都市部では片道1時間以上の通勤が当たり前という人も多く、往復で2時間、週5日働けば月に40時間近くを通勤に費やす計算になります。その時間を休息や家族との時間、あるいは趣味の活動に充てられるという点は、リモートワークの大きな魅力です。
また、通勤がなくなることで、出勤前の慌ただしい準備から解放され、朝の時間をより有効に使えるようになります。仕事を始める前に軽い運動や読書をするなど、精神的な余裕を持つことで生産性が上がるという意見も多く聞かれます。さらに、通勤によるストレスが減ることで、心身の健康にも良い影響を与えます。
一方、企業側にも副次的なメリットがあります。社員の通勤費が削減できることや、オフィスの使用頻度が下がることで、将来的にオフィススペースを縮小し固定費を削減できる可能性もあります。
ただし、通勤負担を軽減する方法はリモートワークだけではありません。たとえば時差出勤制度を導入すれば、ラッシュ時間を避けて通勤できますし、フレックスタイム制を採用すれば、個人の生活リズムに合わせた出勤が可能です。また、郊外や地方にサテライトオフィスを設け、社員が自宅近くで働けるようにする企業も増えています。
つまり、社員のストレスの大部分を占める「通勤」という課題をどう減らすかが、働き方改革の大きな焦点であり、その解決策の一つがリモートワークです。
子育てと両立できる
子育てと仕事の両立を支援することは、どの企業にとっても喫緊の課題です。特に出産や育児を経て職場復帰を望む女性社員にとって、リモートワークの存在は働き続けるための大きな支えになります。出勤に時間を割かず、自宅で子どもの様子を見ながら働けることで、安心感と柔軟性の両方を得られます。
たとえば、幼稚園や保育園に通う前の子どもを育てている母親にとって、在宅勤務は理想的な環境です。突発的な体調不良や送迎のタイミングに対応しやすく、仕事と家庭の両立がしやすくなります。これにより、復職をためらっていた人が働き続けられるようになるという効果も見られます。
また、子育て中の社員が職場に復帰する際に最も不安を感じるのが「他の社員に迷惑をかけるのでは」という心理的負担です。リモートワークであれば、急な中抜けや早退にも柔軟に対応できるため、このストレスを大幅に軽減できます。結果として、離職を防ぐだけでなく、企業に対する忠誠心や感謝の気持ちを育てることにもつながります。
もっとも、終日の在宅勤務が必ずしも最適とは限りません。家庭内の雑事が気になって集中できないという人もいます。そのため、午前中はオフィスで打ち合わせや会議を行い、午後は自宅で資料作成に集中するなど、ハイブリッド型の勤務を導入する企業も増えています。
子育て支援を制度として整えることは、企業のイメージ向上にもつながります。採用市場では「リモートワーク可」が求人の魅力要素となっており、優秀な人材を引きつける要因となっています。
飲み会なし、上司に気兼ね必要なし
リモートワークを望む理由の中には、人間関係に起因するものも多く含まれています。とくに「会社の飲み会に参加したくない」「上司に気を使いたくない」という声は少なくありません。昭和的な社風が根強く残る企業では、仕事以外の場でも上下関係が強調され、プライベートな時間が侵食されることがあります。リモートワークではそうした強制的な付き合いが発生しにくく、心理的な自由度が高まるという点が評価されています。
また、職場では「上司が残っているから自分も帰れない」といった空気が漂うことも多く、これが長時間労働の温床になっています。リモートワークでは、他人の退勤状況を意識せずに済むため、仕事の区切りを自分でつけやすくなります。こうした“見えない圧力”から解放されることで、ストレスの軽減や生産性の向上につながるのです。
しかし、本来これは勤務形態以前の問題であり、組織文化そのものに起因しています。企業がリモートワークに頼らずとも働きやすい職場をつくるためには、まず上司の意識改革が欠かせません。飲み会を任意参加にする、残業を美徳としない文化を根付かせるといった取り組みが必要です。
リモートワークを導入した結果、コミュニケーションが減り、チームの結束が弱まると懸念する声もありますが、それは物理的距離の問題ではなく、マネジメントの質の問題です。日常的に信頼関係を築けていれば、オンラインでも十分な協働は可能です。
つまり、リモートワークの普及が示したのは「社員が嫌がっているのは在社そのものではなく、旧来型の組織文化」であるという事実です。これを直視し、働く環境の精神的ストレスを取り除く努力こそ、定着率向上の第一歩です。
リモートワーク希望は一部口実。工夫で対処できることはある
もちろん、すべての企業がリモートワークを導入できるわけではありません。製造業や物流業、医療・介護といった現場重視の業種では、在宅勤務そのものが不可能です。また、情報管理の厳しい金融業や公的機関などでは、セキュリティリスクが高いため慎重にならざるを得ません。こうした企業では、「リモートワークができない=働きにくい」と思われないよう、別の角度から柔軟性を確保する工夫が求められます。
リモートワークを希望する理由の多くは、実は職場環境の改善によって代替可能です。たとえば通勤負担は、サテライトオフィスや勤務地の自由化によって軽減できます。子育てとの両立は、フレックスタイム制や時間単位の有給制度によっても対応できます。また、人間関係のストレスについては、職場文化の見直しとマネジメント研修によって解決が可能です。
つまり、社員がリモートワークを望む背景には「柔軟に働きたい」「無駄な拘束を減らしたい」というシンプルな願いがあります。企業はその本音を理解し、制度面・文化面の両側から働きやすさを追求すれば、リモートワークを導入しなくても同等の満足度を実現できます。
加えて、企業は「リモートワークを認めない=非効率」という誤解を避けるためにも、対話を重ねることが重要です。社員の声を定期的にヒアリングし、自社に合った働き方を模索する姿勢を示すことで、「理解のある会社」として信頼を得られます。結果として、社員の定着率が高まり、採用競争力の向上にもつながるのです。
まとめ
リモートワークの人気の背景には、単に「家で働きたい」という表面的な理由ではなく、「自分の時間を大切にしたい」「自由に働きたい」という根源的な欲求があります。社員にとってそれは、仕事の生産性以上に、精神的な安心や尊重を象徴するものです。
一方で、企業が抱く「生産性が落ちるのでは」「統制が取れないのでは」という不安も理解できます。重要なのは、リモートワークを一律に良し悪しで判断するのではなく、社員がなぜそれを望むのかを丁寧に把握し、その理由を満たすための環境を整えることです。通勤の負担軽減、子育て支援、職場文化の改善など、社員の働きやすさを支える仕組みを多角的に検討することで、定着率は着実に高まります。
リモートワークを通じて浮かび上がったのは、「社員の自由をどこまで尊重できるか」という経営の姿勢です。信頼と自律を軸にした職場づくりこそが、これからの企業競争力を左右するでしょう。社員が「この会社なら自分の人生と両立できる」と思える環境を整えることこそ、真の意味での働き方改革なのです。

当センターは、弁護士・公認会計士・中小企業診断士・CFP®・ITストラテジストなどの資格を持つセンター長・杉本智則が所属する法律事務所を中心に運営しています。他の事務所との連携ではなく、ひとつの窓口で対応できる体制を整えており、複雑な問題でも丁寧に整理しながら対応いたします。
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給与体系と離職対策

給与体系は労働条件の最重要項目
給与は、労働者が職場を選び、定着するかどうかを左右する最も重要な労働条件の一つです。働く人にとって、業務内容や勤務地、福利厚生なども大切ですが、最終的に生活の基盤となるのは給与です。給与がどのように決まるか、その体系に納得できるかどうかは、従業員の忠誠心や定着率に直結します。
もちろん給与は高いに越したことはありません。しかし現実には、すべての企業が高水準の給与を設定できるわけではありません。そのため従業員は単純に額面だけではなく、給与がどのような基準で決まるのか、昇給の見通しがどのように設定されているのかといった点を重視します。つまり「納得感」が得られるかどうかが肝心です。
納得感を支える要素としては、まず透明性があります。昇給や賞与がどのような基準で決まるかが明確にされていなければ、従業員は自分の努力が正当に評価されているのか疑問を持つでしょう。また、公平性も不可欠です。同じような貢献をしているにもかかわらず、部署や上司によって評価が大きく異なるようでは、モチベーションは低下します。さらに、個々の従業員が給与体系に納得できるかどうかも重要であり、これは単に説明を尽くすだけでなく、従業員自身が「理にかなっている」と感じられる仕組みが必要です。
もし給与体系が不透明で不公平だと感じられれば、従業員は「ここにいても報われない」と考え、転職を検討するようになります。反対に、透明性・納得性・公平性を兼ね備えた給与体系を整えることで、従業員の安心感を高め、離職率を下げることができます。給与体系の設計は経営戦略の一部であり、従業員のやる気や定着を左右する根幹にります。そこで本稿では従業員が離職しにくい給与体系の設定について説明します。
成果報酬よりも年功序列が求められている
近年の労働市場を語る際、若い世代は実力主義や成果報酬を好む傾向にあるとよく言われます。しかし、実際の調査や統計をみると必ずしもそうではありません。むしろ、若い人の中でも年功序列型の給与体系を支持する割合は依然として高く、多くの人が安定的な昇給を望んでいます。
なぜ成果報酬より年功序列が好まれるのか。その背景には、入社してすぐの段階で大きな成果を挙げることは難しい、という現実があります。特に未経験の分野で働く若者にとって、いきなり目に見える成果を出すのは容易ではありません。だからこそ、努力を重ねることで確実に昇給が見込める年功序列型は安心感を与えます。
また、安定的に給与が増えていく仕組みは、人生設計を立てやすいという点でも評価されます。結婚や住宅購入、子育てなどのライフイベントに備えるためには、将来の収入の見通しが重要です。成果主義の場合、ある年は大きく稼げても、翌年は不安定になる可能性があります。この不確実性を嫌う人は少なくありません。
さらに、公平性の観点からも年功序列は一定の支持を集めます。年数を重ねれば誰でも昇給できる仕組みは、少なくとも「頑張っても報われない」という感覚を減らします。もちろん、実力のある人にとっては物足りなさを感じる部分もありますが、多数派にとっては安心材料となります。
給与体系を考える上で重要なのは、単に高額を提示することではなく、従業員が「安心できる」と感じられる仕組みを整えることです。その意味で、年功序列は今なお大きな役割を果たしているといえるでしょう。
評価は主観になりがち
成果報酬を導入する際の大きな課題の一つは、評価が主観的になりやすい点です。もし評価基準が数値化できるものであれば、比較的公平に成果を測ることができます。例えば、営業担当者であれば受注額や契約件数といった明確な数値が基準になりやすいでしょう。
しかし、すべての職種が数値で評価できるわけではありません。企画職や事務職、技術職などでは、上司の判断や印象が大きく影響するケースが多々あります。努力しても成果が目に見えにくい場合や、評価者の価値観に左右されやすい場合には、「本当に自分は正しく評価されているのか」と疑問が生じやすいのです。
さらに、評価が主観に依存するということは、日頃の上司との関係が大きく作用します。良好な関係を築いていれば評価が高くなりやすく、反対に相性が悪ければ不利になると感じる人も出てきます。その結果、業務そのものよりも「評価者にどう見られるか」を意識した行動が増え、本来の仕事の効率や創造性が損なわれる可能性があります。
また、こうした評価制度は従業員の不満の温床になりやすく、納得感を欠くと離職の要因にもなります。特に、同僚との比較で不公平感を覚えた場合、その影響は強く現れます。例えば「自分の方が成果を出しているのに評価が低い」と感じれば、その従業員はすぐに転職市場に目を向けるでしょう。
したがって、成果報酬を導入する際には、できる限り評価基準を客観的に設ける工夫が欠かせません。具体的な行動指標や成果物を設定し、主観に頼りすぎない制度設計を行うことが求められます。そうでなければ、せっかくの成果主義も不満を増大させ、かえって離職を促進する結果になりかねません。
仲間のフォローは評価対象?
現代の多くの仕事はチームで進められます。そのため、個人の成果だけでなく、仲間のフォローや後輩の指導といった「見えにくい貢献」が職場の円滑な運営に大きな役割を果たしています。しかし実際の評価基準において、こうしたサポート業務が十分に反映されるケースは多くありません。
例えば、ある従業員が同僚の業務をサポートし、チーム全体の生産性を高めていたとしても、それが数値に現れにくければ評価対象から外されがちです。フォローは日常的に行われるため記録が残りにくく、また「誰がどの程度貢献したのか」を客観的に測定するのは難しいです。その結果、目立つ成果を挙げた人が評価される一方で、チームの基盤を支えた人の努力は見過ごされることが多々あります。
しかし、組織全体の成果を考えれば、仲間を支える存在は欠かせません。もし全員が自分の成果だけを追い求め、周囲の困難を放置すれば、チーム全体の効率は下がります。むしろ、自分の時間を割いてでも他者を助ける人材は、組織にとって極めて貴重です。
したがって給与体系を設計する際には、こうしたサポート業務を何らかの形で評価に反映する仕組みを検討すべきです。例えば、同僚や後輩からのフィードバックを取り入れる「360度評価」の一部にフォロー活動を含めることが考えられます。あるいは、チーム全体の成果を指標に加えることで、個人プレーだけでなく協力行動も報われるようにすることも有効です。
仲間を支える行動は組織文化にも直結します。フォローが軽視されれば、従業員は「助けても評価されない」と感じ、協力的な雰囲気が失われます。逆に、フォローを評価に取り入れれば、従業員は互いに支え合うようになり、定着率向上にもつながります。
やや割安のベースとインセンティブある成果報酬の組み合わせ
給与水準の設定において、単に「高ければ良い」とはいえません。給与が低すぎれば従業員は生活に不安を感じ、すぐに転職してしまいますが、逆に高すぎればモラルハザードを引き起こす可能性があります。つまり、努力をしなくても十分に報われてしまう状況では、従業員が向上心を失い、生産性が低下する恐れがあります。
そこで一つの工夫として注目されるのが、やや割安の年功序列的な基本給に加え、明確に成果と連動するインセンティブを組み合わせる方式です。基本給を同業他社と比較して少し低めに設定することで、企業への貢献が少ない従業員の給与は上がりにくくなります。その一方で、成果を上げた従業員には十分な報酬を与える仕組みにすることで、公平性とやる気の両立を図ります。
この方式の利点は、従業員に努力の方向性を明確に示せる点にあります。「成果を出せば必ず報われる」と実感できれば、従業員は積極的に能力を発揮しようとします。また、基本給を安定的に受け取れるため、生活基盤が脅かされる不安はありません。つまり、安心感と挑戦意欲を同時に引き出せます。
さらに、インセンティブを工夫することで、組織の目標達成に直結させることが可能です。例えば、売上だけでなく、顧客満足度やチーム全体の生産性改善を評価対象に加えれば、個人主義に偏らずバランスの取れた成果が促されます。
このような複合型の給与体系は、従来型の年功序列や単純な成果主義の欠点を補う可能性があります。特に、従業員が「努力すれば正当に報われる」と感じられる設計をすることで、モチベーションを高め、離職率を下げる効果が期待できます。給与は単なる数字ではなく、働く人の心理に大きく影響する要素であることを忘れてはいけません。
まとめ
給与体系は、従業員が安心して働き続けられるかどうかを決める最重要項目です。額面の多寡だけではなく、納得感や公平性、そして将来への見通しが重要であり、これらが欠ければ離職につながります。
従業員の多くが望むのは、成果主義一辺倒ではなく、安定的に昇給できる仕組みです。年功序列的な要素は今なお根強く支持されており、その理由は生活設計や安心感にあります。しかし一方で、評価の主観性やフォロー活動の軽視といった課題も無視できません。これらを改善しなければ、成果主義も年功序列も限界があります。
最適な形として考えられるのは、基本給をやや割安に抑えつつ、成果に応じた明確なインセンティブを組み合わせる方式です。この方法であれば、努力した人が正当に報われると同時に、生活基盤も守られます。また、フォローやチーム貢献といった目に見えにくい活動を評価に含めることで、組織文化も健全に保たれるでしょう。
最終的に、給与体系は企業の価値観や戦略を映す鏡です。従業員の安心と挑戦意欲を両立させる仕組みを整えることこそが、長期的な人材定着と組織の成長につながります。
当センターでは人財マネジメントの取り扱い経験もあり、貴重な従業員をどのように獲得し、定着させ、伸ばすかについて法律に限らず経営全般の観点から支援させていただきます。下記よりお気軽にご相談ください。

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役に立たない社員についてやってはいけない処遇

組織への貢献度が著しく低い社員の処遇
どのような職場であっても、組織への貢献度が著しく低い社員が存在することは珍しくありません。例えば、明らかに能力不足で与えられた仕事を満足にこなせない人や、基本的なコミュニケーションすら十分にできないためにチームワークを阻害する人などがこれにあたります。組織はチームとして成果を出すことを求められる以上、こうした社員が一人でもいると周囲の業務負担は増加し、全体の生産性が大きく下がってしまいます。さらに、同僚たちがフォローに追われる状況が続けば、努力している人のモチベーション低下を招き、結果として組織全体の士気に悪影響を与えてしまいます。
日本の労働環境においては、このような問題社員の処遇が容易ではありません。その最大の理由は、労働法制にあります。労働契約法や判例の積み重ねにより、解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が認められなければ無効とされます。つまり、単に「役に立たないから」というだけでは正当な解雇理由にならず、会社側は慎重に対応せざるを得ません。そのため、組織は問題社員をどう扱うかについて頭を悩ませることになります。
この状況に対し、経営者や管理職が取るべき対応は感情的な排除ではなく、段階的で合理的なプロセスに基づいた処遇です。安易に「辞めさせたい」と考えて強硬手段に出れば、法的トラブルを招き、企業の信用すら失いかねません。むしろ、組織に与える悪影響を最小化しながら、本人の適性や意欲を見極める道筋を用意することが求められます。そこで本稿では、このような問題社員に対して企業が取り得る適切な対応を、いくつかのステップに分けて解説していきます。
まずは部署異動で様子を見る
組織への貢献度が低いと感じられる社員に対して、最初に取るべき対応のひとつが「部署異動」です。人は環境によって力を発揮できる場合とそうでない場合があり、現在の部署や職務内容が当人の特性に合っていない可能性があります。したがって、ただ「役に立たない」と決めつけるのではなく、他の部署や異なる業務を経験させることで適性を見直す余地があります。
例えば、コミュニケーションが極端に苦手で周囲と連携する業務ではつまずく社員であっても、一人で集中して完結させる業務であれば成果を出せることがあります。逆に、細かい作業が不得手でも、対人対応に強みを持っている人材もいます。異動によって環境を変えることは、本人にとって新しい可能性を開くとともに、組織としても人材を有効に活用できる機会を提供するものになります。
さらに、部署異動にはもう一つの意味があります。それは、将来的に解雇を検討する場合でも「改善の機会を与えた」という合理的なプロセスを会社として踏んだことの証拠となる点です。法的観点からも、いきなり解雇を行うよりも、まずは異動による改善の可能性を探ることが適切な手順と考えられています。
異動を行う際には、単なる人員整理のためではなく「本人の不得手を軽減し、拠り所となる業務や人間関係を得られる環境を整える」という視点が重要です。適切な配置換えが行われれば、本人が意欲を取り戻し、これまで発揮できなかった能力を引き出せる可能性があります。したがって、部署異動は単なる対症療法ではなく、本人と組織双方にとって有益な試みとなります。
キャリア面談の実施
部署異動を経てもなお状況が改善しない場合、次に重要となるのがキャリア面談です。これは単なる業務指導ではなく、本人が自分の将来像をどう描いているかを丁寧に聞き出す場であり、本人の意識改革を促す機会でもあります。
面談では、まず本人に「今後どのように働きたいのか」「どのようなキャリアを望んでいるのか」を率直に語らせることが大切です。そのうえで、上司が冷静に不足しているスキルや態度を指摘し、改善のために必要な具体的ステップを提示します。本人がこれを理解し、補充していく意欲を示すのであれば、まだ救い上げる余地はあるといえます。逆に、指摘を受け入れず、自ら変わる意思を持たない場合は、組織に居続けても成長や貢献は期待できません。
キャリア面談は、単なる指導の場ではなく「本人の改善意欲の有無を見極める場」でもあります。もし改善意欲が確認できるなら、研修や外部講座の受講、業務上の小さな成功体験の積み重ねなどを通じて本人をサポートする道を選べます。一方で、やる気が全く感じられない場合は「これ以上昇進や昇給の余地がない」ことを伝え、将来的な不利益を理解させることが必要です。それによって本人が自主的に退職を検討する道も自然と開かれていきます。
要するに、キャリア面談の最大の意義は「本人が改善に向けて努力するか否か」という一点にあります。ここで努力する姿勢を見せる社員はまだ戦力化の可能性がありますが、やる気がない社員は組織にとって負担でしかありません。その見極めを正しく行うことが、適切な処遇を決定するうえで欠かせなません。
退職勧奨の手法
キャリア面談などを経ても改善が見られない場合には、退職を促す選択肢が浮上します。ただし、ここで注意すべきは「自主退職を促すことは可能だが、強制はできない」という点です。強引に辞めさせることは違法行為にあたり、会社にとって大きなリスクとなります。そのため、退職勧奨はあくまで本人に納得させる工夫が求められます。
一つの方法は、他の社員が好んで行きたがらない部署に異動させることです。これはペナルティのように見えがちですが、合理的な人員配置として説明できれば違法性は生じにくいとされています。本人にとって負担の大きい部署であれば、自ら退職を考える可能性も高まります。
また、人事制度を工夫することも有効です。例えば業績連動型の賞与制度を導入すれば、成果を上げられない社員の賞与は自然に低く抑えられます。その結果、優秀な社員との待遇差が明確になり、能力の低い社員は報酬面で不満を抱き、自発的に退職を検討するかもしれません。さらに、基本給を低めに設定し、業績連動の割合を大きくする給与体系を構築すれば、成果を出す社員は高報酬を得られる一方、貢献度の低い社員は低い給与にとどまる仕組みができます。
このような制度的アプローチは、本人に「居続けることのメリットが薄い」と感じさせ、退職を促すきっかけになり得ます。ただし、いずれの方法も表面的には公平な制度設計として説明できることが重要です。組織は正当なルールのもとで処遇を行うことで、法的リスクを避けつつ問題社員の自発的な退職を実現できます。
パワハラはダメ
問題社員の処遇に行き詰まったとき、ありがちな誤った対応が「パワハラによる排除」です。例えば、露骨に無視をする、全く仕事を与えない、または誰でもできる単純作業ばかりを押し付けるといった行為は、いずれもハラスメントとみなされる可能性が高いものです。こうした対応をとれば、本人から労働基準監督署や裁判所に訴えられるリスクが生じ、会社は不当行為を問われる危険性があります。
嫌がらせを通じて退職に追い込むことは、一見すると手っ取り早い解決策に思えるかもしれません。しかし、これは明確に「やってはいけない処遇」です。訴訟リスクだけでなく、職場全体の空気が悪化し、残っている社員の信頼をも失いかねません。「会社は問題がある人に対して冷酷に追い出しを行う」という印象が広まれば、優秀な社員ですら不安を感じて離職する恐れがあります。
正しい対応は、制度やルールに基づき、本人に納得感を持たせながら自主退職を促すことにあります。退職を決断させるためには、前章で述べたような制度設計や配置転換といった「正攻法」が求められます。結局のところ、企業が取るべき道は法的にも倫理的にも適正な方法であり、パワハラのような不当な処遇は避けるべきです。
まとめ
組織において役に立たないと感じられる社員は、必ずしも珍しい存在ではありません。しかし、その処遇を誤ると、職場全体に悪影響を与えるだけでなく、法的トラブルや企業イメージの低下を招きます。だからこそ、冷静かつ合理的な対応が不可欠です。
まずは部署異動を通じて本人の適性を見直し、改善の可能性を探ることが第一歩です。そのうえでキャリア面談を実施し、本人の意欲の有無を丁寧に確認します。やる気があるなら成長を支援し、やる気がないなら昇給や昇進の機会が閉ざされる現実を理解させ、自主退職への選択肢を提示します。
さらに、退職勧奨を行う場合には、不人気部署への異動や成果に応じた人事制度の活用など、制度的に説明可能な手段を用いることが重要です。そして何より、パワハラによる強制的な排除は絶対に避けなければなりません。
最終的に大切なのは「組織の健全性を保ちながら、本人にも一定の納得感を与える処遇」を実現することです。役に立たない社員を排除することが目的ではなく、組織全体が健全に機能するための仕組みづくりが真の解決策となります。
当センターでは人財マネジメントに長けた専門家が御社の人材戦略全般について法的・財務的観点から幅広く支援いたします。
下記よりお気軽にご相談ください。

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労働審判は突然に。計画的な準備体制の構築を!

労働審判の定着
労働審判制度は、2006年に施行されて以来、今年で20年近くが経過しました。この制度は、労働者と使用者の間で発生した労働関係の紛争を、迅速かつ適正に解決するために設けられたものです。従来、労働問題を解決するには労働者が訴訟を提起する必要がありましたが、訴訟は時間も費用もかかり、精神的な負担も大きいため、泣き寝入りするケースも少なくありませんでした。
労働審判制度は、裁判所において労働審判官1名と労働関係の専門的知識を有する労働審判員2名で構成される合議体が紛争を扱い、原則として3回以内の期日で審理を終えるという迅速性が大きな特徴です。これにより、労働者も使用者も短期間で結論を得られる可能性が高まりました。また、労働審判では、審判手続の中で和解が成立することも多く、双方が一定の譲歩をして合意に至ることも少なくありません。
近年、この制度はすっかり定着し、労働問題の解決手段として一般的な選択肢の一つとなっています。特に、法テラスや各地の弁護士会による無料法律相談を通じて制度が広く知られるようになったことが大きな要因です。制度開始当初は「新しい手続」であることへの不安や誤解から利用件数が伸び悩む時期もありましたが、今では「労働紛争が起きたらまず労働審判を検討する」という認識が広まりつつあります。こうした背景を踏まえると、企業側もこの制度を「特別なケース」ではなく「日常的に起こり得るリスク」として認識し、備えておくことが不可欠です。
労働審判の主な争点
労働審判で扱われる争点は多岐にわたりますが、中心となるのは解雇の有効性と未払金の請求です。解雇に関しては、就業規則や労働契約書に基づく合理的な理由があったのか、手続が適正に行われたのかが厳しく問われます。これに加え、未払の残業代や給与、退職金、賞与などの金銭請求も頻繁に争われます。
かつては、不当解雇や未払金に悩んでいても、「裁判は大変そう」「弁護士費用が高い」といった理由で泣き寝入りする労働者が多く見られました。しかし、労働審判の普及により状況は一変しました。無料法律相談をきっかけに、自分のケースが労働審判に適していると知り、申し立てを決意するケースが増えています。法テラスの利用や着手金不要の弁護士事務所も増え、経済的なハードルが下がったことも背景にあります。
このように、従来なら表面化しなかった労働トラブルが、労働審判によって短期間で争われる事例として顕在化する傾向が強まっています。企業にとっては、今までなら水面下で収まっていた不満が、突然、裁判所からの呼び出しという形で現れるリスクが増しているということになります。そのため、企業は労働審判の典型的な争点を理解し、自社の雇用契約や賃金体系、労務管理の運用における潜在的なリスクを事前に把握することが重要です。
労働審判の特徴
労働審判の最大の特徴は、原則として3回の期日で終結するというスピード感です。通常、1回目の期日で双方の主張がほぼ出揃い、2回目で争点の整理と和解の可能性が探られ、3回目で和解の最終調整や審判の言い渡しが行われます。このため、初回期日から事実関係や証拠を十分に提示できるかどうかが、手続の行方を大きく左右します。
一般的な訴訟では、訴状提出後も何度も期日を重ねながら主張や証拠を追加できますが、労働審判ではそうした余裕はありません。初回から「全力投球」できる準備体制が求められます。例えば、解雇をめぐる事案であれば、解雇理由を裏付ける書類、就業規則、労働者の勤務状況記録、面談記録などを一括して揃えなければなりません。未払金の請求に関しても、賃金台帳や出勤簿、計算根拠を整理して提示する必要があります。
また、労働審判は裁判官だけでなく、労働問題に精通した労働審判員が加わるため、事実や証拠の整合性だけでなく、社会通念上の妥当性も強く意識されます。こうした背景から、制度の性質を理解したうえで、初回期日に向けた計画的な証拠収集と主張整理の仕組みをあらかじめ社内に構築しておくことが、企業防衛の鍵となります。
潜在的な火種を顧問弁護士に連絡しておく必要性
現代では、従業員が表面上は処分や対応に納得しているように見えても、後日、無料法律相談を経て労働審判の申し立てに踏み切ることは珍しくありません。制度が浸透したことで、労働者側が心理的にも経済的にも行動を起こしやすくなったからです。
そのため、企業は「申し立てられてから対応を考える」という姿勢では間に合わない場合があります。特に労働審判は短期間で進むため、初動が遅れると十分な反論や証拠提出ができないまま和解や審判に至ってしまう危険性があります。
そこで有効なのが、社内で発生した潜在的な紛争の芽を早期に顧問弁護士へ共有する仕組みです。この段階では必ずしも正式な相談や依頼に至らなくても構いません。例えば「この懲戒処分について不満を持っているようだ」「退職時の清算額で食い違いがありそうだ」など、火種になり得る情報を顧問弁護士に事前に知らせておくだけでも、リスクの大きさや対応の方向性について助言を受けられます。
こうした早期連絡の習慣を作ることで、いざ労働審判に発展した場合でも、事前に整理された記録や証拠を即座に提出できる体制が整います。企業防衛の観点からも、潜在的な問題を見逃さず、法的な視点を取り入れた予防的アプローチを常態化させることが重要です。
客観的・合理的な判断を
どの組織にも独自の文化や慣習があり、時には感情や過去の経験則に基づいて意思決定が行われることがあります。しかし、労働審判の場では、こうした主観的な判断や社内の常識は通用しません。必要なのは、客観的かつ合理的な判断と、それを裏付ける証拠です。
労働審判は短期決戦であるため、「その場しのぎ」の対応は通用しません。社内の揉め事に関しては、初動の段階から事実関係を正確に把握し、証拠を整え、第三者にも理解できる形で記録することが求められます。例えば、従業員の勤務態度に問題があると判断した場合も、その評価が感情的なものではなく、客観的な勤務実績や行動記録に基づくことを明確にしておく必要があります。
さらに、その判断に至るまでの経過や理由を記録しておくことも大切です。後になって「なぜその決定をしたのか」と問われた際に、文書やデータで説明できるかどうかが、労働審判での防御力を大きく左右します。こうした体制は、突発的な紛争発生時だけでなく、日常的な労務管理の質を高め、社内の透明性や公正性を強化する効果もあります。
まとめ
労働審判制度は、その迅速性と利用のしやすさから、今や労働紛争の解決手段として定着しています。解雇や未払金といった典型的争点をめぐり、これまで表面化しなかった問題が突然、裁判所からの呼び出しという形で企業に突き付けられる時代です。
制度の特徴である短期決戦に備えるためには、初回期日に全ての証拠を提示できる準備体制を日頃から整えておく必要があります。そのためには、潜在的な火種を早期に顧問弁護士へ共有し、リスク分析と対応方針の検討を進めることが欠かせません。さらに、社内の判断は感情や慣習に左右されず、客観的かつ合理的に行い、その経過を記録する仕組みを構築することが求められます。
労働審判は突然やってきます。だからこそ、計画的な準備と日常的な予防策が、企業を守る最大の武器となります。
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