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パワハラを恐れて厳しい指導ができない上司が増加
組織において上司の重要な役割の一つは、部下の仕事ぶりを確認し、その結果について適切なフィードバックを行うことです。部下は仕事を通じて成長していきますが、その成長を促進するためには、自分では気づきにくい課題や改善点を上司から指摘してもらう必要があります。そのため、フィードバックは単なる評価ではなく、人材育成のための重要な業務であるといえます。
かつての職場では、部下のミスや不十分な点について厳しく指導することが一般的でした。厳しい言葉であっても、それが成長を促すためのものであれば許容されるという考え方が広く共有されていました。その結果、多くの職場では失敗を厳しく指摘し、改善を求める指導が当たり前のように行われていたのです。
しかし近年は状況が変化しています。若い世代を中心として、厳しい指導そのものに強い抵抗感を示す人が増えてきました。指導する側には教育の意図しかなかったとしても、受け手が精神的苦痛を感じればパワハラだと主張される可能性があります。実際に職場では、上司が部下への指導について慎重になりすぎる場面も珍しくありません。
その結果として、部下のミスを見てもあえて触れない、改善点を十分に伝えない、問題点を曖昧な表現で済ませるといった対応が増えています。しかし、それでは部下は何が問題だったのかを理解できず、同じ失敗を繰り返す可能性が高くなります。また、自らの課題を把握できないままでは成長の機会も失われてしまいます。これでは長期的には組織全体の生産性や人材育成に深刻な悪影響を及ぼします。部下を育てるという本来の役割を放棄してしまえば、組織としての競争力も低下してしまうでしょう。
重要なのは、厳しい指導をやめることではありません。また、逆に昔ながらの指導方法をそのまま維持することでもありません。求められているのは、部下の成長につながるフィードバックを適切な形で実施することです。そこで本稿では、部下へのフィードバックをどのような考え方で行うべきかについて整理していきます。
目的は2つ
フィードバックについて考える際に最も重要なのは、その目的を明確にすることです。方法論ばかりに注目してしまうと、本来何のためにフィードバックを行うのかが見えなくなってしまいます。
フィードバックの目的は大きく二つあります。一つ目は、部下が同じ失敗を繰り返さないようにすることです。仕事における失敗にはさまざまな種類がありますが、改善可能な失敗については原因を理解し、次回以降に修正していかなければなりません。そのためには、どこに問題があり、どのように修正すべきかを本人が理解する必要があります。
二つ目の目的は、部下を成長させることです。単に失敗を防ぐだけであれば、作業を制限したり権限を与えなかったりする方法も考えられます。しかし組織が求めているのは、人材としての能力向上です。将来的により高い成果を出せる人材へと成長してもらうことが、フィードバックの本質的な役割です。
ここで重要なのは、指導の厳しさそのものを議論の中心にしてはならないということです。厳しい指導が良いのか、優しい指導が良いのかという議論は、本質から外れています。考えるべきなのは、どのような方法であれば失敗の再発防止と成長促進という二つの目的を達成できるのかという点です。
目的を達成しない指導は、どれほど上司が努力していても無意味であると考える必要があります。上司が長時間をかけて説明したとしても、部下の行動が変わらなければ成果はありません。
そのうえで考えるべきなのが、目的を達成しながら当事者双方の負担を減らせないかという視点です。部下の精神的負担を軽減しつつ、上司の指導負担も抑えながら、なおかつ成長を実現する方法を探ることが求められます。フィードバックの議論は、厳しいか優しいかではなく、目的達成にどれだけ貢献するかという観点から行わなければなりません。
近時の若者の傾向
近年の若手社員には、従来の世代とは異なる傾向が見られます。その特徴を理解しないまま過去の成功体験だけで指導を行うと、フィードバックの効果が十分に発揮されない可能性があります。
特に目立つのは、失敗に対するダメ出しを強く嫌う傾向です。もちろん誰であっても否定的な評価は好ましく感じません。しかし近年の若者の中には、改善点を指摘されること自体に強い心理的負担を感じる人も少なくありません。そのため、上司としては改善を求める必要がある一方で、どのように伝えるかについて慎重な配慮が求められます。
また、仕事の進め方に関しても変化が見られます。かつては「まずやってみよう」「失敗しながら覚えよう」という考え方が広く受け入れられていました。しかし現在では、「とりあえずやってみて」という指示に対して不安を感じる人が増えています。何を基準に判断すればよいのか分からない状態で行動することに強い抵抗感を持つ人も多いです。
このような傾向を踏まえると、最初から詳細なマニュアルを整備した方が成果につながる場合があります。詳細な手順や判断基準が示されていれば、若手社員は安心して業務に取り組むことができます。そして業務を繰り返す中で、なぜその手順が必要なのか、どのような意味があるのかを徐々に理解していきます。最初から応用を求めるのではなく、基本を安定して実行できる状態を作ることが重要になります。
さらに、失敗が少ない環境では自信を持ちやすくなります。自信を持てるようになると新しい業務への挑戦意欲も高まり、結果として成長速度が向上することもあります。
もちろん、すべての若手社員が同じ考え方を持っているわけではありません。しかし、従来よりも失敗への心理的抵抗感が強い人が増えていることは無視できない傾向です。フィードバックを行う際には、こうした価値観の変化を前提に考える必要があります。上司自身の経験則だけではなく、相手がどのような環境で力を発揮しやすいのかを理解する姿勢が求められています。
適切なフィードバック手法は十人十色
フィードバックの方法を考える際、多くの管理職が悩むのが公平性の問題です。部下によって対応を変えることに対して、後ろめたさを感じる人も少なくありません。しかしフィードバックについては、画一的な対応が必ずしも望ましいとは限りません。
もちろん、評価や処遇については公平性が重要です。しかしフィードバックは評価とは異なります。その目的は部下を成長させることにあります。したがって、受け手の特性を無視して全員に同じ方法を適用することが必ずしも正しいとはいえません。
重要なのは、上司が好む指導方法ではなく、部下が成長しやすい指導方法を選択することです。フィードバックは上司の自己表現の場ではありません。部下の行動変容を促すための手段です。そのため、受け手の特性を考慮することはむしろ当然の姿勢といえるでしょう。
部下への対応は平等であるべきだという考え方は重要です。しかしフィードバックに関しては、形式的な平等よりも実質的な成長を重視しなければなりません。全員に同じ薬を処方するのではなく、一人ひとりの状態を見ながら最適な方法を選ぶという発想が必要です。
そのため管理職には、個々の部下を理解する努力が求められます。誰に対しても同じやり方を繰り返すのではなく、その人がどのような言葉を受け入れやすいのか、どのような環境で力を発揮するのかを観察し続ける必要があります。部下一人ひとりに着目し、それぞれに最適なフィードバックを模索することこそが、現代の人材育成において重要な姿勢です。
個別のコミュニケーションを通じて決めよ
部下ごとに最適なフィードバックが異なるのであれば、その内容をどのように見つければよいのでしょうか。その答えは、継続的なコミュニケーションの中にあります。
上司は部下の考え方や価値観を完全に把握した状態で指導を始めるわけではありません。そのため、最初のフィードバックについては上司自身の経験や判断に基づいて行うしかありません。本当に重要なのは、その後の調整です。
フィードバックを受けた部下がどのように感じたのか、何が理解しやすかったのか、どのような伝え方であれば納得しやすいのかを確認していく必要があります。こうした対話を繰り返すことで、その人に適したコミュニケーションの形が少しずつ見えてきます。
例えば、改善点の指摘を強く受け止めすぎる部下もいます。そのような場合には、問題点だけを伝えるのではなく、できている部分をしっかり認識させながら改善点を共有する方法が有効なことがあります。逆に、課題を曖昧に伝えるとかえって理解できない部下もいます。その場合には、改善点を明確に示した方が成長につながる可能性があります。
ここで重要なのは、どちらの方法が優れているかではありません。その人に合っているかどうかです。フィードバックは相手との共同作業であり、一方的に押し付けるものではありません。上司と部下が互いに調整を重ねながら、最適な形を探していくものです。
フィードバックの正解は最初から存在するわけではありません。上司と部下が対話を重ねながら作り上げていくものです。だからこそ、個別のコミュニケーションを重視し、一人ひとりに適した方法を模索し続けることが重要です。その積み重ねによって、パワハラとの指摘を避けながら、部下の継続的な成長を実現することができるでしょう。
まとめ
職場におけるフィードバックは、単なる評価や注意ではなく、人材育成のための重要な活動です。しかし近年はパワハラ問題への関心が高まり、上司が指導をためらう場面も増えています。部下から否定的に受け止められることを恐れ、必要な指摘を避けるケースも見られます。
しかし、指導をしなければ問題が解決するわけではありません。改善点を伝えなければ部下は同じ失敗を繰り返し、成長の機会も失われてしまいます。そのため重要なのは、指導をやめることではなく、より効果的な方法を考えることです。
フィードバックの目的は、失敗の再発を防ぐことと、部下を成長させることの二つです。この目的を達成できない指導は、どれほど時間や労力をかけても意味がありません。厳しいか優しいかではなく、目的達成にどれだけ貢献するかという視点で考える必要があります。
そのためには継続的なコミュニケーションが欠かせません。上司が一方的に方法を決めるのではなく、部下の反応や意見を踏まえながら調整を重ねていく必要があります。フィードバックは固定された技術ではなく、上司と部下が協力して作り上げる仕組みです。
パワハラを避けながら部下を育成するためには、画一的な正解を探すのではなく、一人ひとりに合った方法を見つける姿勢が重要です。個別の対話を重ね、目的達成に最も効果的なフィードバックを模索し続けることこそが、現代の管理職に求められる人材育成のあり方といえるでしょう。
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