応受義務がある場面でのカスハラ対策【弁護士×MBAが解説】

カスハラ対策は難しい

各種ハラスメントの中でも、カスタマーハラスメント(カスハラ)の対策は特に難しいといわれています。商売である以上、事業者は顧客と接点を持ち、商品やサービスを提供して対価を受け取ります。そのため、顧客の要望を把握し、可能な範囲で応じることは、事業を継続するうえで欠かせません。顧客からの苦情や厳しい意見も、サービスの品質を改善するための重要な情報となる場合があります。

しかし、顧客だからといって、どのような要求や言動も許されるわけではありません。従業員の人格を傷つけたり、業務上の必要性を欠く要求を繰り返したりする行為には、毅然とした対応が求められます。

難しいのは、顧客対応の適切な範囲と、許容できない行為との境界が必ずしも明確ではないことです。顧客から厳しい指摘を受けただけで対応を打ち切れば、正当な苦情まで拒絶することになりかねません。一方、顧客の要求を受け入れ続ければ、従業員の負担が増大し、通常の業務にも支障が生じます。

こうした判断を現場の担当者だけに任せると、対応にばらつきが生じたり、従業員が無理な要求を我慢し続けたりするおそれがあります。事業者には、顧客の正当な要望に応える姿勢を維持しながら、従業員を守るための判断基準を整えることが求められます。そこで本稿では、顧客対応を簡単には拒否できない場面におけるカスハラ対策の考え方を解説します。

薬剤師には応需義務がある

カスハラへの対応が難しい職種の一つに、薬剤師があります。薬剤師は医薬品の適正な使用を支える専門職であり、患者の健康や安全に深く関わっています。患者と直接接する機会が多い一方、専門的な判断や制度上の制約について、十分な理解を得られないこともあります。

薬剤師には、法令上、正当な理由がなければ調剤を拒んではならないという応需義務に関わる制約があります。そのため、一般的な接客業のように、顧客との関係を簡単に打ち切るという対応はできません。ただし、応需義務があるからといって、顧客からのあらゆる要求に無条件で応じなければならないわけではありません。調剤に関する法的な義務と、顧客のすべての要望を受け入れることは区別する必要があります。

患者の中には、薬剤師を医師の処方に従って薬を用意するだけの存在と捉える人もいます。しかし、薬剤師には医薬品の適正使用を支える専門的な役割があり、患者の希望に応じられない場合もあります。こうした事情が理解されないと、専門職として必要な説明や判断が、患者の不満につながることがあります。

このような環境で、担当者が個人の判断だけで問題を解決することには限界があります。応需義務がある業務だからこそ、どのような要求に対応すべきか、どのような言動には応じる必要がないのかを事前に整理することが重要です。 さカスハラ対策を従業員の忍耐や交渉力に頼るのではなく、法令上の義務と顧客対応の限界を明確にしておくことが、従業員を守りながら必要な業務を継続するための基盤となります。

業務関連性や迷惑度

カスハラ対策では、顧客の要求が業務に関連するものかどうかを判断することが重要です。事業者は提供するサービスに関する正当な申し出には対応する必要がありますが、業務と関係のない要求まで引き受ける義務があるわけではありません。

薬剤師についても、調剤や医薬品の適正使用に関わる業務と、それ以外の要求を区別して考える必要があります。 もっとも、業務との関連性は、要求の表面的な内容だけで判断できるものではありません。サービスの品質や安全性に関する申し出であれば、事業者として確認すべき場合があります。一方、業務に関連する話題が含まれていても、要求のすべてが正当化されるわけではありません。業務との関連性は、対応の必要性を判断する重要な基準の一つです。

また、顧客の言動が周囲に及ぼす迷惑度も考慮しなければなりません。事業者には、目の前の顧客だけでなく、ほかの顧客にも適切なサービスを提供する責任があります。特定の顧客への対応が長時間に及び、通常の業務やほかの顧客へのサービスに支障を生じさせている場合、その影響を踏まえて対応を検討する必要があります。

こうした判断を担当者任せにしないためには、事前に業務の範囲を整理しておくことが有効です。何に対応すべきかが明確になれば、対応する必要のない要求も区別しやすくなります。業務上の必要性が認められない要求については、組織の基準に基づいて毅然と断ることができます。顧客の意見に丁寧に対応することは、サービスの品質向上や信頼の獲得につながります。カスハラ対策は顧客対応を減らすためではなく、必要な対応に適切な労力をかけ、不当な要求によって業務が圧迫されることを防ぐためのものです。

まずは説得

顧客の言動がカスハラに該当する可能性がある場合、まずは相手に行為を改めるよう説得することが基本です。要求に応じられないときには、その理由を冷静に説明し、どのような対応が可能なのかを伝えます。顧客の話を聞くことと、要求を受け入れることは別です。相手の主張を確認したうえで、受け入れられない要求には明確に応じられないと伝える必要があります。

説得を行うのは、顧客の要求を無条件に受け入れるためではありません。相手が自分の言動の問題点を理解し、行為を改める可能性があるからです。事業者が一方的に拒絶すれば、顧客の不満がさらに強まり、対立が深まることもあります。冷静な説明を尽くし、改善の機会を設けることが、適切な顧客対応につながります。

以前から迷惑行為を繰り返している顧客であっても、基本的には説得を試みることが必要です。ただし、これは危険な状況でも対話を続けなければならないという意味ではありません。暴力や脅迫などの危険がある場合には、従業員の安全を優先し、必要に応じて警察などの外部機関への相談を検討すべきです。

説得を行っても迷惑行為が続き、適切な顧客対応を維持することが困難になった場合には、接客を断ることを検討します。重要なのは、顧客との信頼関係です。事業者が誠実に説明し、対応を改善するための努力を尽くしても、相手が不当な要求を続けるのであれば、通常の接客関係を維持することは難しくなります。ただし、事業者側も冷静な説明と誠実な対応を心がけ、信頼関係を維持するために努力することが大切です。

断るありきでは解決しない

カスハラ対策では、最終的に顧客対応を断ることが必要になる場合があります。しかし、最初から接客拒否を前提にすると、問題の根本的な解決につながらないおそれがあります。顧客から不当と思われる要求があった場合でも、まずは内容を確認し、話し合いによって解決できる余地があるかを見極める必要があります。

話し合いは、顧客の要求を受け入れるためだけに行うものではありません。事業者が対応できる範囲と、対応できない範囲を説明し、相手に理解を求めるためにも必要です。顧客の不満に合理的な理由があれば、事業者側が改善すべき点を把握できます。一方、要求が不合理であれば、その理由を説明して修正を求めることができます。

ただし、説明を尽くしても相手が要求を改めず、威圧的な言動や執拗な対応を続ける場合には、話し合いによる解決が難しくなっていると判断する必要があります。対応に過度な時間や人員を費やせば、ほかの顧客へのサービスや通常業務に支障が生じ、従業員の負担も増大します。

そこで重要なのが、話し合いを続ける段階と、対応からの撤退を検討する段階を明確に区別することです。ルールを設ける際にも、接客拒否の条件だけを定めるのではなく、どの時点で話し合いを打ち切り、責任者への引き継ぎや対応終了を検討するのかを明確にすることが望まれます。

判断基準には、説明を尽くしたか、相手が改善の求めに応じているか、業務への支障がどの程度生じているかなどを含めます。また、撤退の判断を現場の担当者だけに背負わせず、責任者が組織として判断できる体制を整えることも重要です。法令上の義務を確認しながら、対話と撤退を適切に切り替えられる仕組みを整えることが、顧客への責任と従業員の保護を両立させるカスハラ対策となります。

まとめ

応受義務がある場面でのカスハラ対策では、顧客に対する責任を果たしながら、従業員を不当な要求や迷惑行為から守る必要があります。薬剤師のように法令上の応需義務が問題となる職種では、顧客対応を簡単に拒否できません。しかし、応需義務があるからといって、あらゆる要求を受け入れなければならないわけではありません。

対応の判断では、要求が業務に関連するものか、ほかの顧客や従業員に迷惑を及ぼしていないかを確認することが重要です。業務の範囲を事前に整理しておけば、対応すべき要求と、断るべき要求を区別しやすくなります。一方、正当な要望には丁寧に応じ、サービス向上につなげる姿勢も必要です。 カスハラが疑われる場合には、まず相手に言動を改めるよう説得し、話し合いによる解決を目指します。

事業者側も冷静な説明を尽くし、信頼関係を維持するために努力することが大切です。ただし、危険がある場合には安全を優先しなければなりません。 話し合いを続けても改善が見られず、業務や従業員に深刻な支障が生じる場合には、対応からの撤退を検討します。そのためには、話し合いを続ける段階と撤退を検討する段階の判断基準を設け、責任者が組織として判断できる体制を整えることが重要です。

接客拒否を前提とするのでも、無制限に要求を受け入れるのでもなく、法令上の義務を踏まえながら、対話と毅然とした対応を適切に切り替えることが実効性のあるカスハラ対策につながります。

当センターではカスハラ対策のご相談対応経験が豊富です。下記よりお気軽にご相談ください。

お問い合わせ種別
会社名
お名前必須
メールアドレス必須
電話番号必須 - -
郵便番号 〒 -
住所
ご希望の回答方法 内容によっては”メール”を選択された方でもお電話で回答をさせていただく場合がございます。
お問い合わせ内容必須

keyboard_arrow_up

0647927635 問い合わせバナー 無料相談について