
このページの目次
介護業界で深刻なカスハラの実態
カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラは、特定の業界だけで発生する問題ではありません。その中でも、介護業界ではカスハラが特に深刻な問題になりやすいと指摘されています。介護サービスは、利用者やその家族と従業員との距離が近く、継続的な関係が生じやすいという特徴があります。そのため、サービスへの要望や不満が従業員に直接向けられることもあります。しかし、社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動には、事業者として明確に対応する必要があります。
しかも、介護業界では以前から人手不足が大きな課題となっています。必要な人員を確保できない状態で業務量が増えれば、一人当たりの負担は重くなります。そこへカスハラが加われば、従業員は通常業務に加えて顧客とのトラブルにも対応しなければなりません。精神的な負担が大きくなれば、離職につながる可能性もあります。
従業員が減れば残った従業員の負担が増え、その負担がさらに離職を招くという悪循環にも陥りかねません。介護サービスは人が担う部分が大きいため、従業員を守ることは事業者自身を守ることにも直結します。したがって、カスハラ対策は単なる顧客対応ではなく、介護事業を継続するための経営上の重要課題として捉える必要があります。
一方、人手不足は事業者にとって単純な弱点とは限りません。人材の確保が難しいからこそ、限られた人的資源をどの顧客にどのように提供するかを考える余地があります。そこで本稿ではカスハラ対策の逆転策を解説します。
人手不足はロボットで補うしかない
日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が続いています。介護を必要とする人が増える一方で、そのサービスを担う現役世代が減少すれば、介護業界の人手不足は構造的な問題になります。求人広告を増やしたり採用活動を強化したりするだけでは、根本的な解決が難しい問題です。もちろん、待遇改善や職場環境の改善によって介護業界で働く人を増やす努力は必要です。しかし、社会全体で働くことのできる人の絶対数が減少している以上、事業者同士が限られた人材を奪い合うだけでは限界があります。
それでも、介護の仕事そのものがなくなるわけではありません。高齢者の生活を支えるために必要な仕事は、労働人口が減少しても残り続けます。必要な仕事を減少する人数だけで処理することには限界があるため、人間が担う仕事の量そのものを減らす必要があります。
そこで重要になるのが、ロボットやデジタル技術の活用です。人間が行っていた作業の一部を機械に置き換えることができれば、一人の従業員が対応できる業務量を増やせます。単純作業や定型的な作業を機械に任せ、人間が人間でなければ対応しにくい仕事に集中するという考え方です。
もっとも、機械を導入すれば人間が不要になるわけではありません。機械には得意な作業と不得意な作業があり、人間による対応を求める需要も残ります。そのため、人手不足への対応では、人間が担う仕事と機械が担う仕事を適切に分ける視点が欠かせません。
みどりの窓口でよく見られる光景
JRのみどりの窓口では、有人窓口に長い列ができる光景が見られることがあります。駅には自動券売機などが設置され、一定の手続については機械を操作することで短時間に処理できます。それでも有人窓口での対応を求める人が少なくないことは、機械化だけでは解消できない需要が存在することを示しています。その背景には、機械の操作方法が分からないことだけでなく、自分で操作することへの不安や、操作そのものを不便だと感じることがあります。また、機械では自分の希望どおりに処理できるか判断しにくい場合もあります。
重要なのは、技術が存在することと、利用者がその技術を使いこなせることは別問題だという点です。事業者が機械化を進めても、すべての利用者が自然に機械へ移行するとは限りません。機械を使うことに抵抗を感じる人や、人的なサポートを必要とする人も一定数存在します。
このことは、介護業界における省人化を考える際にも重要です。介護を受ける側には、デジタル機器の操作に慣れていない人もいます。また、身体的な事情や認知機能の状態によって、機械とのやり取りそのものが難しい人もいます。むしろ、機械を使える人と使えない人との間には、サービスの受けやすさに差が生じる可能性があります。機械化によって人的負担を減らすことは必要ですが、機械化されたサービスだけでは満たせない需要が存在することも認識しなければなりません。
つまり、労働力不足をロボットなどによって補う方向へ社会が進んだとしても、人間による対応を求める人が消えるわけではありません。機械化が進むほど、人間が直接対応することの意味が相対的に明確になる可能性があります。人手不足への対応では、人間によるサービスそのものが持つ価値にも目を向ける必要があります。
ヒトの柔軟な対応には価値がある
みどりの窓口に人が並ぶ背景には、有人対応の柔軟性があります。機械を利用する場合、利用者は画面に表示された選択肢から必要なものを選び、決められた手順に従って処理しなければなりません。これに対して、人に相談すれば、自分の希望を口頭で説明し、それに応じた処理をしてもらうことができます。人間による対応の価値は、単に作業を代わりに行ってもらえることだけではありません。利用者が何を求めているのかを会話の中から理解し、状況に応じて対応を変えられることに大きな意味があります。決められた手順では対応しにくい細かな希望にも、人間であれば一定の範囲で柔軟に対応できます。
また、利用者自身が何をすればよいのか分からない場合にも、人間の存在は大きな意味を持ちます。機械は入力された情報に基づいて処理できますが、利用者の曖昧な説明から意図をくみ取り、必要な手続を整理することには限界があります。人間同士であれば、会話を通じて情報を補いながら問題を解決できます。
この柔軟性には経済的な価値があります。JRの窓口業務では、窓口で相談すること自体に個別の相談料を支払う仕組みではありません。それでも有人窓口を利用したい人が多く、行列が生じるのであれば、人間による対応が利用者にとって価値のあるサービスであることが分かります。
この考え方は、サービス業全体に当てはまります。技術によって安価かつ効率的なサービスを提供できるようになっても、人間による柔軟な対応を求める需要までなくなるわけではありません。むしろ、機械による対応が一般化するほど、人間が対応するサービスには独自の価値が生まれます。たがって、人手不足だからといって人間によるサービスの価値まで低く評価する必要はありません。人間にしか提供しにくい柔軟性や安心感があるのであれば、それは適切な対価を設定する対象になり得ます。
恐れずに値上げを
介護業界でも、ロボットやデジタル技術による省人化が進んだとしても、人間による介護サービスへの需要がなくなるとは考えにくいでしょう。介護は単純な作業だけで構成されているわけではなく、利用者の状態や希望を踏まえながら柔軟に対応する場面が多いためです。人間による対応を求める利用者が一定数存在する以上、そのサービスには適切な価格を設定する必要があります。
そこで、人間による対応を必要とするサービスについては、その価値を価格に反映させる考え方が重要になります。値上げは単に利益を増やすためだけの手段ではありません。確保した人材に適切な待遇を提供し、十分な人員を配置し、従業員が安心して働ける環境を整えるための原資にもなります。
人材確保が容易になれば、一人の従業員に過剰な負担を集中させる必要もなくなります。余裕のある人員配置は、サービスの品質を維持するうえでも重要です。さらに、顧客から不当な要求を受けた場合にも、事業者がその要求を無条件に受け入れなければならない状況を避けやすくなります。
特に重要なのは、すべての顧客を同じ条件で受け入れる必要はないという発想です。人的サービスには限界があり、その限られた人的資源を適切な条件で提供することは、事業者として当然に検討すべき経営判断です。人間によるサービスを必要とする人は、その価値に見合う対価を負担することで、人的対応を受けるという関係を明確にできます。その結果、事業者は従業員を守りながらサービスを継続しやすくなります。値上げには利用者側の理解を得る努力も必要ですが、人手不足という厳しい環境だからこそ、人間によるサービスの価値を正面から評価し、適切な価格を設定することが重要です。
まとめ
介護業界では、少子高齢化による人手不足に加え、カスタマーハラスメントへの対応が従業員の負担を増やす要因となっています。人が不足している状況で、顧客からの過度な要求まで受け止め続ければ、従業員の疲弊や離職を招き、さらに人手不足が深刻になる可能性があります。
労働人口そのものが減少する社会では、人を増やすことだけで問題を解決するのは困難です。そのため、ロボットやデジタル技術を活用して、人間が担う仕事を減らしていくことが重要になります。ただし、機械を導入すればすべての利用者がそれを使えるわけではなく、人間による柔軟な対応を求める人は一定数残ります。
人間によるサービスには、機械では代替しにくい価値があります。利用者の話を聞き、個別の事情を踏まえて対応すること自体が、サービスとしての価値になり得ます。したがって、人手不足だからといって人的サービスを安価に提供し続ける必要はありません。人間による介護を必要とする人に対しては、その価値に見合った価格を設定し、得られた収益を人材確保や待遇改善、職場環境の整備に活用することが重要です。人員に余裕が生まれれば、従業員への過剰な負担も抑えやすくなります。
また、人的資源が限られていることを前提にサービスの範囲と価格を明確にすることで、顧客からの過度な要求に対しても、事業者が適切な線引きをしやすくなります。すべての要求に応じることが顧客サービスなのではなく、従業員を守りながら持続的にサービスを提供することが重要です。
値上げは単なる利益増加策ではありません。人間によるサービスの価値を適切に評価し、その対価を人材確保や職場環境の改善に充てることで、介護事業を持続させるための経営手段になります。カスハラと人手不足を別々の問題として捉えるのではなく、人的サービスの価値を適切に価格へ反映させる視点が求められます。
当センターではハラスメント対策を組織的に進めながら、企業の人的資源を守り、育てていく支援を行っております。下記よりお気軽にご相談ください。

当センターは、弁護士・公認会計士・中小企業診断士・CFP®・ITストラテジストなどの資格を持つセンター長・杉本智則が所属する法律事務所を中心に運営しています。他の事務所との連携ではなく、ひとつの窓口で対応できる体制を整えており、複雑な問題でも丁寧に整理しながら対応いたします。
窓口を一本化しているため、複数の専門家に繰り返し説明する必要がなく、手間や時間を省きながら、無駄のないスムーズなサポートをご提供できるのが特長です。
大阪府を拠点に、東京、神奈川、愛知、福岡など幅広い地域のご相談に対応しており、オンラインでのご相談(全世界対応)も可能です。地域に根ざした対応と、柔軟なサポート体制で、皆さまのお悩みに親身にお応えいたします。
初回相談は無料、事前予約で夜間休日の相談にも対応可能です。どうぞお気軽にご相談ください。
