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人手不足の切り札
人手不足が深刻化する現在、企業にとって重要なのは、限られた人材を奪い合うことではなく、これまで十分に活用できていなかった人材を戦力として生かすことです。その中でも大きな可能性を持つのが女性です。労働力人口が減少していく社会では、女性が持つ能力や経験を十分に引き出せるかどうかが、企業の人材確保に直結します。
そもそも、仕事を遂行する能力について、男性だから高く、女性だから低いという合理的な差があるわけではありません。にもかかわらず、企業社会では長年にわたり、男性を中心に重要な仕事や責任あるポジションを担わせる傾向が続いてきました。その背景には、女性が出産や育児によって仕事から離れる期間を持ちやすく、そのことが本人の能力とは別のところでキャリア形成に影響してきた事情があります。
出産休暇や育児休業を経て職場に戻る女性には、休業前に培った経験や知識が蓄積されています。一定期間、職場を離れていたからといって、それまで身につけた能力が消えるわけではありません。むしろ、企業がその能力を継続的に活用できる仕組みを整えれば、人手不足の中で安定した戦力として機能する可能性があります。
もっとも、従来型の企業の仕組みを維持したまま女性の登用だけを進めても、十分な成果を得ることは困難です。勤務時間、仕事の割り振り、評価、人材登用など、企業活動の基本的な考え方そのものに見直すべき部分が存在します。女性を単に採用人数や管理職比率の数字として捉えるのではなく、能力を持つ人材として適切に活用する視点が必要です。そこで本稿では、女性を登用するために企業が変わるべきポイントを解説します。
長時間労働優先の業務体制
日本企業には、長い時間働くことを前提として仕事を組み立てる傾向が根強く残っています。勤務時間の長さが仕事への貢献度と結びつきやすく、会社に長くいることや、必要に応じて残業や休日労働に対応できることが、仕事に対する積極性として評価される場面もあります。しかし、このような業務体制は、勤務時間に制約のある人材を活用するうえで大きな障害となります。
典型的なのは、フルタイム勤務者とパートタイム勤務者との間で、担当する仕事の重要性に差がつくことです。勤務時間が長い人には責任のある仕事が集まり、勤務時間が短い人には補助的な仕事が集まりやすくなります。また、残業や休日労働を厭わない従業員ほど、重要な仕事を任されやすくなる傾向があります。仕事そのものの難易度や本人の能力ではなく、時間的な融通が利くかどうかが、役割の大きさを左右してしまうためです。その結果、家庭の事情などによって勤務時間を限定せざるを得ない人は、能力が十分にあっても重要な業務から外されやすくなります。
このような風土が続くと、時間に制限のある人には、重要性が低く、代替可能で、賃金も比較的安い仕事を割り当てればよいという考え方が組織内に定着してしまいます。すると、短時間勤務者が持っている専門性や判断力、経験といった本来評価すべき要素が見えにくくなります。結果として、本人の能力が活用されないだけでなく、企業にとっても人材投資の効果を十分に得られません。
重要なのは、仕事の価値と勤務時間を切り離して考えることです。長く働けることは一つの勤務上の特性にすぎず、それだけで高い能力を意味するものではありません。同様に、短時間しか働けないことも、その人が重要な仕事を遂行できないことを意味しません。企業が人材を最大限に活用するためには、勤務時間の長さを基準として仕事の重要性を決める発想から離れる必要があります。
女性の登用を進める場合にも、単純に女性が長時間働ける環境を作るだけでは十分ではありません。企業側が従来の長時間労働中心の業務体制を当然と考え続ければ、勤務時間に制約のある優秀な人材ほど、能力を発揮する機会を失ってしまいます。人材を勤務時間ではなく、組織への貢献という観点から捉え直すことが求められます。
女性管理職が少ない
女性の登用を考える際、現在の女性管理職の少なさは大きな課題です。女性は出産や育児によって一時的に仕事から離れたり、勤務時間を制限したりすることがあり、それが長期的なキャリア形成に影響しやすい構造があります。その結果、管理職候補となる年代において、男性と女性の経験や役職に差が生じやすくなります。
この問題が難しいのは、現在の人材登用が過去の組織構造の影響を受けるからです。企業内部の人事評価では、直属の上司や管理職による評価が重要な意味を持つことが少なくありません。日常的な業務上の接点やコミュニケーションを通じて、仕事ぶりや将来性が評価され、その評価が昇進や重要な仕事への配置につながる仕組みです。
しかし、管理職に女性が少なければ、組織内の管理職像そのものが男性中心になりやすくなります。さらに、管理職から見た「将来管理職になりそうな人材」の中に女性が少ない状態が続けば、次の世代の女性管理職も増えにくくなります。こうして、女性管理職が少ないことが、さらに女性管理職を増やしにくくする循環が生まれます。
女性の管理職登用を進めるためには、現在の管理職比率だけを問題にするのではなく、管理職に至るまでの人材育成や評価の過程そのものを見直す必要があります。女性が管理職候補として認識され、重要な業務を経験し、責任ある立場を担う機会を得られる状態を作ることが重要です。管理職になる前の段階で十分な経験を積めなければ、本人に意欲や能力があっても登用につながりません。
そして、この取り組みは短期間で完結するものではありません。女性管理職が少ないという結果だけを見て、急に登用数を増やそうとしても、候補となる人材の育成が追いつかない場合があります。女性が管理職として経験を積み、その評価が次の人材登用に反映される循環を形成することが重要です。女性管理職を増やすことは、単なる人数調整ではなく、企業の人材構造を中長期的に変えていく取り組みとして考える必要があります。
タスク型の仕事と評価
優秀な女性を登用するためには、勤務時間や勤務形態ではなく、その人が何をできるのかという能力に着目することが重要です。仕事を細分化し、それぞれのタスクについて必要な能力を明確にすれば、誰がどの仕事を担うべきかを勤務時間とは別の基準で考えることができます。これは女性の登用に限らず、企業全体の生産性を高めるうえでも重要な考え方です。
従来の日本企業では、一人の担当者が仕事を最初から最後まで抱え、必要があれば長時間働いて処理するという働き方が少なくありませんでした。しかし、必要以上に長時間働くことを「頑張っている」と評価する考え方は、見直す必要があります。長時間労働によって生じる疲労や集中力低下も考えれば、労働時間そのものを評価の中心に置くことは、組織全体の生産性を悪化させる可能性があります。
そこで、重要な仕事については、必要な能力を持つ人に適切に割り当てるという発想が有効になります。能力の高い人が勤務時間に制約を抱えていたとしても、その人が担当できる重要なタスクを任せることは可能です。そのうえで、特定の人にしかできない仕事と、時間に余裕のある人が対応できる仕事を切り分ければ、組織として仕事を効率よく分担できます。
この考え方では、フルタイム勤務者が重要な仕事を独占する必要はありません。能力を持つ人に必要なタスクを任せ、残った業務をフルタイム勤務者が空いた時間で処理するという分担も成立します。重要なのは、誰が何時間会社にいるかではなく、誰がどの仕事に適した能力を持っているかです。
評価制度についても、勤務時間より成果を重視する方向へ変える必要があります。もちろん成果だけでは測れない業務もありますが、少なくとも「長く働いたこと」そのものを高く評価する仕組みからは距離を置くべきです。何時間働いたかではなく、何を成し遂げたのか、どのような価値を組織にもたらしたのかを評価することが、人材の能力を正しく生かすための基本になります。
能力の高い人材はいくらいても良い
どのような業界であっても、能力の高い人材はいくらいても困るものではありません。企業にとって人材は単なる人数ではなく、価値を生み出す源泉です。市場環境が変化し、業務内容が高度化するほど、個々の従業員が持つ専門性や判断力、問題解決能力の重要性は高まります。そのため、能力のある人材を確保し、適切な役割を与えることは、企業経営において極めて重要です。
ところが、優秀な人材を採用したり確保したりするだけでは十分ではありません。本人の能力に見合った仕事を与えず、組織の中で眠らせてしまえば、企業にとって大きな損失となります。いわゆる飼い殺しの状態では、本人が持つ能力が成果につながらず、本人の意欲も低下しやすくなります。能力の高い人材ほど、適切な仕事を与えられなければ、その存在価値を企業内で十分に発揮できません。
女性についても同じことがいえます。女性だからという理由で重要な仕事を任せないことや、パートタイム勤務だからという理由だけで能力を低く評価することは、現代の企業経営において明らかに合理性を欠く考え方です。勤務形態は仕事に投入できる時間を示すものであって、その人が持つ能力や経験の高さを直接示すものではありません。
むしろ人手不足が進む状況では、企業が自ら人材の活用範囲を狭めることは大きなリスクになります。採用市場から優秀な人材を確保することが難しくなるほど、既に社内にいる人材の能力をどこまで引き出せるかが重要になります。女性の登用を進めることは、女性のためだけの施策ではなく、企業が持つ人的資源を最大限に活用するための経営戦略でもあります。
企業に求められているのは、女性を特別扱いすることではありません。能力の高い人材に性別や勤務形態による先入観を持ち込まず、適切な役割を与えて活用することです。その結果として女性の登用が進むのであれば、それは企業にとっても健全な人材活用が実現した証拠といえます。能力のある人材を見つけ、適切な仕事を与え、その成果を正当に評価する。この意識を企業全体で持つことが、人手不足の時代における人材戦略の基本になります。
まとめ
女性登用を進めることは、単なる人事制度上の目標ではありません。人手不足が深刻になる中で、企業が持っている人材の能力を最大限に活用するための経営課題です。男性と女性の間に能力そのものの優劣があるわけではないにもかかわらず、出産や育児による勤務上の制約がキャリア形成に影響し、それが仕事の割り当てや評価の差につながっているのであれば、企業側がその構造を見直す必要があります。
特に、長時間労働を前提とした業務体制は、勤務時間に制約のある人材の能力を活用するうえで大きな壁となります。重要な仕事を長時間働ける人に集中させるのではなく、能力に応じて仕事を分担し、勤務時間とは別の基準で成果を評価することが重要です。
また、女性管理職が少ない状態を放置すれば、人材登用の循環も変わりません。女性が重要な仕事を経験し、評価され、責任ある立場へ進める環境を継続的に整えることが必要です。
女性登用の本質は、女性だけを優遇することではありません。性別や雇用形態ではなく、能力と成果に着目して人材を配置することです。企業にとって能力の高い人材はいくらいてもよく、その能力を眠らせておく余裕はありません。女性を戦力として生かすために必要なのは、女性に合わせて仕事を軽くすることではなく、能力を発揮できる仕事を適切に任せることです。
企業が変えるべきなのは、女性そのものではなく、人材を見る側の仕組みです。勤務時間の長さではなく成果を見る、属性ではなく能力を見る、そして一度決めた役割に人材を固定するのではなく、その時々の能力に応じて仕事を任せる。この発想へ転換できれば、女性登用は人手不足対策にとどまらず、企業全体の生産性と競争力を高める取り組みになります。
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