中小企業のマタハラ対策【弁護士×中小企業診断士が解説】

中小企業ではマタハラ対策にまで手が回りにくい

中小企業では、職場におけるハラスメント対策の重要性が広く認識されるようになっています。特に、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントについては、社内でのルールを整備したり、従業員に研修を実施したりする企業も増えています。しかし、ハラスメント対策を幅広く進めようとすると、どうしても優先順位がつけられ、妊娠・出産を理由とする嫌がらせ、いわゆるマタニティハラスメントへの対応まで十分に手が回っていない企業も少なくありません。

中小企業では、大企業と比べて一人ひとりの従業員が担う役割が大きいという特徴があります。大企業であれば、妊娠した従業員の業務を別の部署へ移したり、人員を入れ替えたりすることで、一定程度の影響を吸収できる場合があります。ところが、もともと少人数で事業を運営している中小企業では、たった一人の従業員が妊娠し、勤務時間や業務内容に一定の配慮が必要になるだけでも、組織全体の稼働力に大きな影響が及ぶことがあります。

もちろん、残された従業員に負担が生じること自体は否定できません。仕事を引き継ぐ人の負担が増えたり、予定していた業務の進め方を変更したりする必要が生じたりすることもあります。そのため、経営者や管理職が「なぜこの時期に」と苛立ちを感じてしまうこともあるでしょう。しかし、その苛立ちを妊娠した従業員に向け、組織内で悪役のように扱ったり、嫌味を言ったり、働きにくい環境を作ったりするのは筋違いです

妊娠という事情によって組織運営上の調整が必要になったとしても、それは従業員個人を責めることで解決する問題ではありません。企業として必要なのは、従業員の妊娠を理由に不利益な扱いや嫌がらせが生じないようにしながら、事業運営も維持するという両方の課題に向き合うことです。

そこで本稿では、中小企業でこうしたマタハラをなくすための方策を解説します。

こんなことしていませんか

マタハラは、露骨な暴言や明確な嫌がらせだけによって生じるものではありません。本人としては冗談や軽い声掛けのつもりであっても、妊娠した従業員にとっては強い精神的負担になることがあります。そのため、職場で交わされる言葉についても、妊娠を理由として相手を傷つけたり、職場に居づらい思いをさせたりするものになっていないか注意が必要です。

典型的なのは、妊娠した従業員に対して「これからゆっくり休めて羨ましい」などと揶揄する発言です。本人にとって妊娠や出産に伴う休業や勤務上の配慮は、単なる休暇や負担軽減ではありません。身体的な変化や生活上の調整を伴う大きな出来事です。それを「楽ができる」という意味に置き換えてしまえば、本人が抱えている事情を軽視することにつながります。

また、「お前のせいで他の従業員が迷惑を被っている」などと伝えることも適切ではありません。少人数の組織では、一人の従業員が業務から離れることで、他の従業員の仕事量が増えることがあります。その現実を無視する必要はありませんが、その負担を妊娠した従業員個人の責任として追及することは別問題です。

そもそも、妊娠は必ずしも企業の都合に合わせて計画的に生じるものではありません。仕事の繁忙期や人員配置の状況を見ながら、妊娠する時期を完全に調整できるわけではない以上、「今は困る」という会社側の事情だけを基準に考えることには限界があります。企業活動に影響が生じる場合には、その影響をどう処理するかを組織として考える必要があります。

そして、職場で大切なのは、新たな生命の誕生という出来事に対して、まず素直に祝福する気持ちを表せることです。妊娠した従業員が安心して報告できる環境は、本人だけでなく、周囲の従業員にとっても健全な職場環境につながります。妊娠を「迷惑な出来事」と受け止めるのではなく、一人の従業員の人生における重要な出来事として尊重する姿勢が求められます。

基本は人事で対応

妊娠した従業員については、身体的な事情などを踏まえ、過重な労働を強いることがないよう配慮する必要があります。その結果として、これまで本人が担当していた業務の一部を他のメンバーが引き受けなければならないこともあります。中小企業では一人あたりの担当範囲が広いことも多いため、業務のカバーは簡単ではありません。

だからこそ、こうした問題を当事者同士の感情のぶつかり合いにしてはいけません。基本となるのは、人事部門など会社側が中心となって業務体制を整理することです。必要に応じて増員を検討したり、配置転換を行ったり、担当業務を組み替えたりすることで、妊娠した従業員に過剰な負担を集中させず、同時に組織全体の業務が滞らないように調整します。

もちろん、配置転換や担当変更によって影響を受ける従業員が出ることはあります。これまで担当していなかった業務を引き受けることになれば、仕事を覚える負担も生じます。従来の担当業務を変更することになれば、不満を感じる人が出ることも考えられます。中小企業では人員に余裕がないため、こうした負担を完全になくすことは容易ではありません。

しかし、そこで生じた不満を妊娠した従業員に向けてしまえば、組織として問題を解決するどころか、職場内の関係を悪化させることになります。従業員同士が「自分ばかり負担させられている」という感情を抱くこともあるでしょうが、その不満を特定の従業員への攻撃に変えてしまうことは避けなければなりません。

企業として重要なのは、妊娠という出来事に対してマイナスの感情を持つのではなく、必要な調整を会社の仕事として受け止める姿勢です。妊娠した従業員を責めるのではなく、業務上必要となる変更を組織として処理するという考え方を共有しておくことが大切です。

そのためには、個々の従業員の善意だけに頼るのではなく、会社として妊娠・出産を尊重する考え方を明確にしておく必要があります。従業員の妊娠に対してマイナスな感情を持たず、ポジティブに受け止められる組織風土をあらかじめ形成しておくことが、円滑な職場運営につながります。

急な対応には限界がある

中小企業でマタハラ対策が進みにくい背景には、妊娠の報告を受けてから短期間で組織の体制を変更することが難しいという事情があります。中小企業はもともと必要最小限の人員で事業を運営しているケースが多く、一人分の業務を吸収できるだけの余力を持っていないことも珍しくありません。

特に、人員の増員は簡単ではありません。採用活動を始めても、すぐに適切な人材が見つかるとは限りません。採用できたとしても、業務内容を理解して一人前に仕事を担えるようになるまでには時間がかかります。単純に「一人足りなくなったから一人採用する」というだけでは、短期間の問題を解決できない場合があります。

配置転換についても同様です。中小企業では従業員数が少ないため、配置を変更できる人材の選択肢そのものが限られています。ある従業員を別の仕事に移せば、その従業員がもともと担当していた仕事を別の人が引き受ける必要があります。そのため、一つの配置変更が別の業務への影響を生み、全体の調整が必要になることもあります。

こうした事情を考えると、従業員側からは、妊娠が判明した場合に可能な範囲で早めに会社へ報告することが望まれます。早い段階で情報が共有されれば、会社側も今後の勤務体制を検討するための時間を確保できます。急に業務を引き継がなければならない状況を避けることができれば、周囲の従業員に生じる負担を抑えることにもつながります。

一方、会社側にもできることがあります。上司が日頃から従業員と定期的に面談し、仕事上の困りごとや勤務についての希望を把握する機会を設けることです。もちろん、妊娠の有無を不適切に尋ねることは避けなければなりません。しかし、従業員が相談しやすい環境を整え、必要な事情を安心して伝えられる関係を作ることには意味があります

マタハラ対策は、問題が発生してから慌てて対応するだけでは十分ではありません。中小企業ほど、限られた人員で業務を回しているからこそ、早期に情報を共有し、組織として落ち着いて対応できる状態を作っておくことが重要です。

とにかくマイナス評価しない組織風土作り

従業員が妊娠すると、他のメンバーに一定の負担が生じることがあります。仕事を引き継いだり、担当範囲を広げたり、勤務の調整をしたりする必要が生じるためです。中小企業ではもともと余裕のない人員で仕事を回していることが多く、その負担が従業員の不満につながりやすい点には注意が必要です。

問題なのは、その不満が妊娠した従業員に向けられてしまうことです。職場の誰かが「少しくらい嫌味を言っても仕方がない」「露骨な嫌がらせをしなければ問題ない」と考えるようになると、妊娠した従業員に対する揶揄や皮肉が許容される雰囲気が生まれます。こうした状態は、一見すると重大な問題が起きていないように見えても、職場環境を徐々に悪化させます。

さらに、一度不満を特定の従業員に向けることが許されると、その考え方は妊娠以外の事情にも広がりかねません。誰かが休めば「あの人のせいだ」と言い、誰かが配慮を受ければ「自分ばかり損をしている」と不満を持つような組織になれば、従業員同士が互いに支え合うことは難しくなります。不満の転嫁が組織内で連鎖することで、職場全体の雰囲気は次第に悪化していきます。

だからこそ、企業として「妊娠したことを理由に従業員をマイナス評価しない」という姿勢を明確にすることが重要です。妊娠によって一時的に担当できる業務が変わったとしても、それを本人の能力や仕事への姿勢の問題として評価してはいけません。妊娠・出産に伴う事情と、従業員の職務上の価値を切り離して考えることが必要です。

そして、妊娠した従業員に対しては、まず素直に祝福するという文化を作ることが大切です。負担が生じる場合には、それを誰か個人の責任として扱うのではなく、会社全体の運営上の問題として考えます。妊娠をマイナス材料にせず、一人の従業員の人生における喜ばしい出来事として受け止める姿勢を組織全体で共有することが、健全な職場風土につながります。

まとめ

中小企業では、少ない人数で業務を運営しているため、従業員の妊娠によって仕事の分担を変更しなければならないことがあります。その結果、周囲の従業員に一定の負担が生じることは避けられない場合があります。しかし、その負担があるからといって、妊娠した従業員を責めたり、嫌味を言ったり、職場で不利な扱いをしたりすることが許されるわけではありません。

マタハラ対策で大切なのは、妊娠した従業員と、それによって影響を受ける従業員を対立させないことです。会社として必要な業務上の調整を行い、特定の従業員に負担や不満が集中しないように組織を運営する必要があります。人員の増加や配置の見直しなど、企業側が担うべき対応を個々の従業員同士の問題にしないことが重要です。

また、急な対応には限界があるため、必要な情報を早めに共有できる環境も欠かせません。従業員が安心して相談できる職場であれば、会社側も業務体制を検討するための時間を確保できます。中小企業だからこそ、一人の従業員の変化が会社全体に与える影響を踏まえ、早い段階から組織として対応する意識が必要です。

最も重要なのは、従業員の妊娠をマイナス評価する組織風土を作らないことです。妊娠した従業員に対する不満や揶揄を放置すれば、それは別の事情を抱える従業員への不満にもつながります。妊娠・出産を素直に祝福し、必要な業務上の調整は会社の責任として行うという姿勢を共有することが、マタハラの防止につながります。

中小企業では、大企業ほど人員や予算に余裕がないからこそ、制度だけに頼るのではなく、従業員同士が互いの事情を尊重できる職場を作ることが重要です。妊娠した従業員を守ることと、他の従業員の負担を軽減することは、決して対立する課題ではありません。会社が責任を持って両者を調整する姿勢を示すことで、誰もが安心して働き続けられる職場を実現できます。

当センターではマタハラを含む、組織内のハラスメントを撲滅する施策の策定を支援しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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