在庫処分は損切りが9割【公認会計士×MBAが解説】

在庫処分と売掛金回収の違い

企業の資産管理を考えるうえで、在庫と売掛金はどちらも貸借対照表に計上される流動資産です。そのため、経営者としては、どちらも帳簿に記載された金額どおりに現金化したいと考えるのが自然です。資産として計上されている以上、その価値をできる限り維持したまま資金へと転換することが企業経営の基本だからです。

もっとも、在庫と売掛金は同じ流動資産であっても、その性質は大きく異なります。売掛金は、すでに商品やサービスの提供が完了しており、その対価として受け取るべき金銭です。したがって、原則として額面どおり回収することが当然に期待されます。回収できない場合には貸倒れという異常事態であり、貸倒引当金の計上や貸倒損失の処理など、会計基準に従った適切な処理が求められます。売掛金の値引きや放棄は、本来避けるべき例外的な対応です。

一方で在庫は、まだ販売されていない商品です。販売価格は市場環境や需要によって変動し、時間の経過とともに商品の価値も変わっていきます。食品や生鮮品のように品質が劣化するものだけでなく、衣料品や家電製品、日用品なども新商品が登場したり流行が変化したりすることで、市場価値が下落していきます。帳簿上では同じ取得原価で計上されていても、市場でその価格のまま売れる保証はありません。

そのため、在庫については一定の時点で値引きを行い、販売価格を調整しながら売り切るという判断が日常的に行われます。売掛金のように「額面どおり回収すること」が原則ではなく、「市場価値に応じて価格を修正すること」が経営判断として必要になります。つまり、売掛金では回収不能を防ぐことが重要課題であるのに対し、在庫では価値が失われる前に適切な価格で販売することが重要課題になります。そこで本稿では、主に在庫処分のあり方を解説します。

在庫は一定程度まで必要悪

「売れ残り」という言葉には、どうしても失敗や無駄という印象があります。そのため、在庫はできる限りゼロに近づけるべきだと考える経営者も少なくありません。しかし、企業が利益を最大化しようとするのであれば、実際には一定程度の売れ残りは避けられず、むしろ必要な存在であると考えるべきです。

企業は需要を完全に予測することはできません。販売機会を逃さないためには、ある程度余裕を持った仕入れが必要になります。仮に需要予測どおりぴったりの数量しか仕入れなかった場合、予想を少しでも上回る需要が発生すると、本来販売できたはずの商品が不足し、利益を失ってしまいます。

例えば、100円で仕入れた商品を150円で販売する場合を考えてみます。もし仕入数量が少なく、販売機会を逃したならば、本来得られた50円の利益を失うことになります。この利益は目に見えませんが、企業にとっては確実な機会損失です。売り切れを喜ぶだけでは、本来得られる利益を取り逃がしている可能性があります。

一方で、需要をやや上回る数量を仕入れれば、売れ残りが発生することがあります。この場合、100円で仕入れた商品が在庫として残ることになりますが、その商品を最終的に100円以上で販売できれば利益は維持できます。もちろん定価どおり150円では売れないかもしれませんが、120円や110円で販売できれば一定の利益は確保できます。

つまり、利益を最大化するという観点では、「売れ残りをゼロにすること」ではなく、「売れ残っても利益を確保できる範囲で販売すること」が重要です。販売機会を逃すことによる利益の喪失と、売れ残りによるコスト負担を比較しながら、最適な仕入数量を考える必要があります。

そのため、多くの企業では需要予測よりもやや多めに仕入れ、販売状況を見ながら価格調整を行い、最終的には仕入価格以上で売り切るという考え方が基本になります。この方法であれば、販売機会を逃さず、なおかつ利益も確保しやすくなります。

もちろん、仕入れ過ぎれば処分が必要になる可能性も高まります。しかし、それを恐れて仕入れを極端に抑えてしまえば、利益獲得の機会そのものを失うことになります。在庫は悪ではなく、利益を得るために一定程度必要な投資でもあります。重要なのは、在庫をどのような考え方で管理し、最終的に利益へ結び付けるかという経営姿勢です。

値引きの割合とタイミングが重要

企業は需要を予測して仕入れを行いますが、その予測が常に正確とは限りません。特に事業が好調な時期ほど、将来も同じように売れ続けると考え、楽観的な需要予測に基づいて多めに仕入れてしまう傾向があります。その結果として、想定以上の在庫を抱え、処分に苦労することになります。

仕入れ過ぎた在庫を抱えた場合には、価格を調整して販売数量を増やすことが必要になります。その際に重要なのが、いつ値引きを始めるかというタイミングと、どの程度価格を下げるかという値引き幅です。この二つの判断によって、最終的な利益は大きく変わります。

値引きを早く始めれば、比較的高い価格のまま販売数量を増やすことができる可能性があります。しかし一方で、顧客が「しばらく待てば値下がりする」と考えるようになると、定価で購入する人が減少するおそれがあります。値引き販売が常態化すると、本来維持したかった販売価格そのものが市場で受け入れられなくなり、長期的な収益力を低下させる要因にもなります。

また、値引き幅についても慎重な判断が必要です。原価を上回る価格で販売できれば利益は残りますが、原価を下回る価格で販売すれば、その時点で赤字が確定します。そのため、多くの経営者は赤字販売を避けようとします。

しかし、原価割れを恐れて在庫を保有し続けることが、必ずしも損失を小さくするとは限りません。在庫を保有している間も、保管スペースの確保、管理費用、棚卸しの手間、資金拘束など、さまざまなコストが発生しています。これらは帳簿には見えにくいものの、確実に企業の利益を圧迫しています。

したがって、ある時点を過ぎれば、原価割れであっても処分を優先した方が企業全体としての損失を抑えられる場合があります。在庫処分とは利益を守るための行為であると同時に、損失の拡大を止めるための経営判断でもあります。まさに「損切り」という発想を持つことが、在庫管理では極めて重要になるのです。

年輪調べ

売掛金管理では、発生からどれだけの期間が経過しているかを一覧化する「年齢調べ」が重要であると言われます。回収が長期間滞っている債権ほど回収可能性が低下するため、経過期間を可視化することで回収の優先順位や貸倒れのリスクを把握できるからです。同じ考え方は在庫管理にも当てはまり、在庫については「年輪調べ」とでもいうべき管理が欠かせません。

年輪調べとは、各在庫が仕入れられてから何年、あるいは何回の販売シーズンを経過しているかを把握することです。在庫数量や金額だけを管理していても、それぞれの商品がどれだけ長く倉庫に眠っているのかまでは分かりません。しかし、滞留期間を一覧化すれば、どの在庫が健全で、どの在庫が問題を抱えているかが一目で分かるようになります。

在庫は帳簿上では同じ取得原価で計上されていても、経過した時間によって実際の価値は大きく異なります。仕入れたばかりの商品と、数年間売れ残っている商品では、販売できる可能性も市場価値も同じではありません。その違いを把握せずに管理していると、数字の上では資産が十分に存在しているように見えても、実際には現金化できない資産が増え続けることになります。

しかし、長期間売れ残っている商品は、現実には需要が低いことを示しています。販売の機会が何度もありながら売れなかったという事実は、将来も売れない可能性が高いことを意味します。帳簿価格を維持したいという思いだけで保有し続けても、資産価値が回復する保証はありません。むしろ保管費用や管理負担だけが積み重なり、損失が拡大していくことも少なくありません。

そのため、年輪調べによって一定期間を超えて滞留している在庫を把握したならば、処分や大幅な値引きを積極的に検討すべきです。重要なのは、「いつか売れるかもしれない」という期待ではなく、「これまで売れなかった」という事実を重視することです。在庫管理では希望的観測よりも客観的なデータに基づく判断が求められます。

また、年輪調べは一度実施すれば終わりではありません。定期的に更新し、滞留在庫の推移を継続的に確認することによって、仕入れの精度や販売戦略の改善にもつながります。在庫を単なる数量や金額で管理するのではなく、「時間」という視点を加えて管理することが、健全な資産管理を実現する重要なポイントなのです。

季節性のある在庫

すべての在庫を同じ基準で評価してしまうと、適切な在庫管理はできません。特に注意しなければならないのが、販売時期が限定される季節性のある商品です。こうした商品は、通常の商品とは異なる考え方で管理する必要があります。

商品には年間を通じて販売されるものもあれば、特定の季節だけ需要が集中するものもあります。夏向けの商品、冬向けの商品、あるいは特定の行事やイベントに関連する商品などは、その時期を過ぎると需要が大きく減少します。しかし、それは商品価値そのものが失われたことを意味するわけではありません。このような商品については、一時的に売れなかったという理由だけで大幅な値引きや処分を急ぐ必要はありません。適切な保管を行い、次の販売機会に備えることも十分合理的な判断となります。

したがって、季節性のある在庫については、販売サイクル全体を見据えて管理することが重要になります。もっとも、季節性があるという理由だけで、いつまでも保有し続けることが正当化されるわけではありません。何年も繰り返し販売機会があったにもかかわらず売れ残っている商品は、市場で十分な需要が存在しないことを示しています。そのような在庫は、次のシーズンを待てば売れるという期待よりも、処分によって損失を確定させる判断の方が合理的である場合が多くなります。

この点でも年輪調べは大きな役割を果たします。何回の販売シーズンを経過したのかを記録しておけば、「今年は保管する」「来年も売れなければ処分する」といった客観的な判断基準を設けることができます。担当者の希望や感覚だけで判断するのではなく、一定のルールに基づいて管理することで、滞留在庫の固定化を防ぐことができます。

季節性商品は、一般商品よりも保管判断が難しい在庫です。しかし、販売サイクルを理解しながら適切に管理すれば、利益を維持したまま販売機会を最大限活用することができます。一方で、長期間売れ残っている在庫については、季節性という理由に甘えることなく、損切りを含めた冷静な判断を行うことが、健全な在庫管理には欠かせません。

まとめ

在庫処分という言葉には、失敗の後始末という印象があります。しかし、実際には在庫処分は企業経営における重要な利益管理の一つであり、適切なタイミングで損切りを行うことが企業価値を守ることにつながります。

在庫は流動資産ですが、売掛金とは異なり時間の経過によって価値が変化します。そのため、帳簿価格を維持することだけを目標にすると、現実には売れない在庫を抱え続け、資金や保管スペースを浪費することになります。資産として計上されていることと、実際に資産価値があることは必ずしも一致しません。

また、利益を最大化するためには一定の売れ残りは避けられません。販売機会を逃さないためには適度な在庫を持つ必要があり、その在庫を状況に応じて価格調整しながら利益を確保していくことが基本となります。重要なのは売れ残りをゼロにすることではなく、利益を残しながら適切に売り切ることです。

さらに、年輪調べによって滞留期間を可視化し、長期間売れ残っている在庫については客観的な基準で処分を判断することも欠かせません。季節性商品については販売サイクルを考慮しながら管理する一方で、何度も販売機会を逃している在庫については、将来への期待ではなく現実を踏まえて判断する姿勢が求められます。

在庫処分は利益を失う行為ではありません。むしろ、これ以上損失を拡大させないための経営判断です。利益を追求することと同じくらい、損失を適切なところで止めることも経営者の重要な役割です。だからこそ、「在庫処分は損切りが九割」という意識を持ち、感情ではなく数字と時間に基づいて在庫を管理することが、企業の持続的な成長につながります。

当センターでは売掛金回収と在庫管理の高度化を支援しております。下記よりお気軽にご相談ください。

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