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ハラスメントがなくならない構造
近年、職場や事業活動における各種のハラスメントが頻繁に報道されています。パワーハラスメント、カスタマーハラスメントをはじめ、立場や関係性の違いを背景とした問題は、社会全体で大きな関心を集めています。
現在では、ハラスメントに関する研修を実施したり、相談窓口を設置したり、社内規程を整備したりする企業は決して少なくないと思われます。従業員に対して注意を促し、問題が起きた際の対応手順を定めている企業も増えています。かつてのように、ハラスメントを単なる個人間のトラブルとして放置するのではなく、組織として対策すべき問題であるという認識は広がっています。
しかし、その一方で、ハラスメントに関する対策が広がっているにもかかわらず、問題がなくなったとは到底いえません。対策を講じているはずの企業や組織でも、新たなハラスメントが発生し、被害を訴える声が後を絶たないことがあります。
ハラスメントを本当に減らすためには、なぜその行為が繰り返されるのか、なぜ問題が起きても適切に解決されないのかという構造に目を向ける必要があります。ハラスメントは個人の資質だけに原因を求めるのではなく、それを生み出し、継続させる土壌がないかを考えることが必要です。
対症療法を繰り返しているだけでは、問題の形が変わるだけで根本的な解決には至りません。発生したハラスメントを一件ずつ処理するだけではなく、そもそもハラスメントが生じやすい状況や、問題が見過ごされやすい仕組みを見直すことが求められます。元を絶つという視点を持って初めて、継続的な改善への道筋が見えてくるのです。そこで本稿ではハラスメントを根から絶つ手法を紹介します。
パワハラは結論ありきで片づけられやすい
数あるハラスメントの中でも、特になくなりにくいものの一つがパワーハラスメントです。パワハラは職場における優越的な立場や人間関係を背景として生じるため、単に「相手を尊重しましょう」と呼びかけるだけでは解決しにくい側面があります。組織には一定の役割分担や指揮命令系統が存在するため、その構造そのものを無視することはできません。しかし、その上下関係が強く意識されすぎると、パワハラが発生しやすい環境が形成されます。
上下関係が厳しい組織では、下位の立場にある人が上位者に対して異議を述べにくくなります。自分の評価や処遇、今後の仕事への影響を考えれば、不満や苦痛を感じていても声を上げることをためらうのは自然なことです。その結果、問題のある言動があっても周囲に伝わらず、上位者自身も自らの行為を問題として認識しないまま状況が続くことがあります。立場の差が大きいほど、問題を問題として表面化させること自体が難しくなります。
さらに、パワハラの解決を第三者を介して行おうとする場合にも、組織内の力関係が影響することがあります。本来、第三者は双方の言い分を公平に確認し、事実関係を整理したうえで判断する役割を担うべきです。しかし、問題となっている上位者が組織内で強い影響力を持っている場合、その第三者に対して直接的または間接的な影響を及ぼし、自身に有利な方向へ話を進めようとするケースがあります。
第三者が形式上は中立であっても、実際には組織内の立場や人間関係から自由でなければ、公平な判断をすることは容易ではありません。上位者の意向を無視することで自分自身の立場が悪くなると考えれば、無意識のうちに判断が偏ることもあります。このような状態では、被害を訴えた側の主張よりも、組織内で力を持つ人の説明が重く扱われる危険があります。
その結果、問題は十分に検証されないまま、上位者にとって都合のよい結論ありきで片づけられることになります。パワハラ対策を考える際には、行為そのものだけでなく、問題の解決過程にまで上下関係が持ち込まれていないかを慎重に見なければなりません。
カスハラは「お金を出した方が上位」という考えを絶対化しがち
カスタマーハラスメントも、対策を講じていてなお繰り返し発生しやすい問題です。顧客からの意見や要望に適切に対応することは事業者にとって重要ですが、その範囲を超えて従業員に過度な精神的負担を与えたり、不当な要求を繰り返したりする行為まで受け入れる必要はありません。それにもかかわらず、カスハラへの対応では、顧客側の主張をどこまで受け止めるべきかという判断が難しくなり、対応が長期化しやすい傾向があります。
カスハラを行う人の中には、一度主張を始めると執拗に繰り返す傾向が見られます。対応する側が何度説明しても要求を変えず、より強い態度で要求を続けることがあります。このような行為の背景には、サービスや商品に対してお金を支払ったのだから、自分の要求は当然に優先されるべきだという考え方が強く存在している場合があります。お金を支払うという事実を、あらゆる場面で相手より優位に立つ根拠として絶対化してしまうのです。
もちろん、事業者が対価を受け取る以上、顧客に対して誠実に対応する責任があります。しかし、対価を支払ったことと、何を要求しても許されることはまったく別の問題です。取引関係は一方だけが絶対的に優位に立つものではなく、双方がそれぞれの役割や責任を果たすことで成り立っています。それにもかかわらず、「お金を出した側が上位である」という発想が強くなると、顧客の要求を無条件に優先する空気が生まれやすくなります。
こうして、お金を出したというただ一つの事実だけを根拠として、顧客優位の展開へと流れやすくなります。本来は取引の内容や相互の責任を踏まえて判断すべきところが、支払者であるという立場だけが過度に重視されるためです。カスハラをなくすためには、顧客を大切にすることと、顧客のすべての要求に従うことを混同しない姿勢が不可欠です。両者を明確に区別できなければ、不当な要求を受け入れ続ける構造そのものが温存されてしまいます。
パワハラは上位者に屈しない第三者の介入が必要
パワハラの根源に上下関係が存在する以上、その問題を解決する過程でも上下関係の影響を受けないようにしなければなりません。組織内で強い立場にある人が関係する問題について、同じ組織の中だけで解決しようとすると、判断する側もさまざまな圧力や配慮から完全に自由になることは難しい場合があります。したがって、パワハラ対策では、上位者に忖度しない人間が適切に介入できる仕組みを整えることが重要です。
重要なのは、問題を訴えた人と訴えられた人のどちらかに安易に肩入れすることではありません。双方の言い分を十分に聞き、必要な情報を整理したうえで、公平な判断を行うことが求められます。そのためには、問題となっている上位者よりもさらに上位の立場にある人が、中立的な立場で双方の言い分を聞くことが有効です。重要なのは、当事者間の上下関係が判断に持ち込まれず、事実に基づいて対応できる環境を確保することです。
また、組織内部だけで中立性を確保することが難しい場合には、顧問弁護士など外部の人間に対応を任せることも必要です。外部の専門家であれば、日常的な社内の人間関係や評価制度から一定の距離を置くことができます。そのため、組織内の力関係に引きずられずに状況を整理しやすくなります。外部に任せることは責任逃れではなく、公平な判断を確保するための選択肢として位置付けるべきです。
上下関係の存在が解決の結論に影響を与えないよう、誰がどのように介入するのかをあらかじめ考え、実効性のある仕組みを整えることが、パワハラを根から減らすために必要です。
カスハラの最終解決はお断りすること
カスハラが長期化する背景には、お金を出した顧客の主張を優先し続けなければならないという固定観念があります。事業者にとって顧客は重要な存在であり、売上を生み出してくれる相手です。そのため、顧客から厳しい要求を受けた場合でも、取引を維持することを優先してしまいがちです。しかし、顧客であるという立場は、事業者や従業員に対して無制限の要求をする権利を意味するものではありません。
カスハラを根本的に解決するためには、対応の限界を明確にする必要があります。どのような要求でも受け入れるという姿勢では、迷惑行為を繰り返す顧客との関係を断ち切ることができません。事業者として受け入れられる要望と、受け入れられない迷惑行為との境界を定め、その基準に従って対応することが重要です。担当者個人の判断に委ねるのではなく、組織として一定のルールを持つことで、対応のぶれを減らすことができます。
そして、迷惑行為が改善されず、通常の取引関係を維持することが難しい場合には、取引そのものをお断りするという選択も必要になります。場合によっては、受け取ったお金を返金したうえで関係を終了させることも考えられます。
売上を増やしたとしても、迷惑顧客への対応に多くの時間と人員を割かなければならなければ、収益性は低下します。一人の顧客への対応が長時間に及べば、その間に本来対応すべき他の顧客へのサービスも滞る可能性があります。また、従業員が精神的に疲弊すれば、組織全体の働きやすさや生産性にも影響します。表面的な売上だけを見て取引の継続を判断することは、経営上も適切とはいえません。
必要なのは、売上至上主義から一歩離れ、自社にとって本当に守るべきものを明確にすることです。適正な利益を確保し、従業員が安心して働ける環境を維持することは、企業が継続的に事業を行うための重要な条件です。断るべき相手には適切に断るという姿勢を持つことで、お金を支払った側が常に優位であるという構造を断ち切ることができます。カスハラをなくすためには、対応を続けることだけを解決策と考えず、関係を終了させる決断も含めて適切な選択をすることが重要です。
まとめ
ハラスメントを減らすためには、問題が発生するたびに個別の行為だけを注意したり、形式的な対策を増やしたりするだけでは十分ではありません。なぜハラスメントが発生し、なぜ問題が起きた後も繰り返されるのかという構造に目を向け、原因そのものを取り除くことが重要です。元となる構造が残ったままでは、一時的に問題が収まっても、別の場面で同じような問題が再発する可能性があります。
パワハラでは、組織内の上下関係が問題の発生だけでなく、問題解決の過程にも影響を及ぼすことがあります。そのため、強い立場にある人の影響によって結論が左右されないよう、公平な立場で判断できる人が関与することが必要です。組織内で十分な中立性を確保できない場合には、外部の専門家を活用することも有効です。問題を処理する側まで力関係に支配されない環境をつくることが、実効性のある対策につながります。
一方、カスハラでは、お金を支払った顧客が絶対的に優位であるという考え方が問題を長引かせることがあります。顧客を尊重することは大切ですが、不当な要求や迷惑行為まで受け入れる必要はありません。事業者として守るべきルールを定め、必要な場合には取引を終了させることも含めて対応することが求められます。
ハラスメント対策で大切なのは、問題を起こした人への対応だけに終始しないことです。問題を生み出す力関係や、問題行動を許容し続ける仕組みが残っていないかを確認し、その根を断つ必要があります。表面的な対処ではなく、ハラスメントが繰り返される原因にまで踏み込むことによってこそ、安心して働き、事業活動を行える環境をつくることができます。
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